書類を抱えて廊下を走る足が以前に比べて重い・・・・・気がする。

(うわぁ、老化か?最近、運動不足だし、こき使われて寝てないし。
室長は逃亡中だし。マジで転職しようかなぁ・・・・・・)

と、考えながら階段を一気に駆け上がろうとすると、腕にドカッと衝撃がはしり、
気がつくと、抱えていた書類がバサバサと宙を舞うのが目に映った

「うわぁーーーーーっ」
「わっ、すいません!!前よく見てなくてっっ」

呆然とした自分の声に重なったのは15歳という歳に似合わぬ白い髪と丁寧な口調の少年、
アレンだった。

「あ、リーバーさん。すみません!大丈夫でしたか?」
床に散乱している書類を手際よく拾いながらアレンが心配そうにこっちをうかがう。

「ああ、大丈夫だ。アレンどうした?髪なんか濡れてるぞ?」
白い髪が僅かだがしっとり濡れている。そのことにふれた途端、穏やかだった顔が一瞬にして少し不機嫌な顔に変わる。

「ええ、どこぞのパッツン男児がいきなり凶暴化しまして・・・」
ムスッとしたまま、半分持ちますよ、と言ってリーバーの隣に並ぶ。
誰に対しても物腰の柔らかなアレンが唯一けんか腰になるのは、彼より三つ年上のエクソシスト神田ユウだけだった。
大人びた態度で人に接し、戦闘に赴くので、つい彼が15歳のことをを忘れてしまいがちだが、神田とケンカ、小競り合い??をしている時だけ
15歳の顔にもどるのだ。

15歳の横顔は相変わらずムスッとしたまま、黒髪のエクソシストの悪態をつく。
どうやらまた、些細な事で口げんかしたらしい。

―――――― あいつも昔は可愛かったんだけどなぁ

などと、考えていると自分の顔をマジマジと見ているアレンの視線とぶつかった。

「どうした?」
「あ、いや・・・・。教団で一番もてるのは誰かなぁ?って思いまして。。
リーバーさん?ですか?」

「まさか!あーーーー、だれだろうなぁ??クロス元す・・・」
「あの人は別ですっ!!もっとまっとうな人の中でです。」

アレンの言葉に思わず苦笑しながら考えを巡らす。

「あ、でも、ラビは子供の時、すげぇモテてたぜ。」
「へぇー、なんかちょっと意外・・・・ですね。」
「まぁ、今からするとな。昔はすごかったぜ。」

と言いながら、懐かしい光景が頭の中をよぎった。











Story not special















「んじゃぁ、実習生!!コレも頼むわ。」
「あ、はい。わかりました!!」

2年先輩の科学班員に手渡されたのは、膨大な資料の山だった。
(あーーーー、これ全部目を通すのかよ・・・)

ゲンナリしつつも、両手いっぱいの資料の山を抱え、なんとか自分のデスクへと向かう。
そこには、既に積みあがっている書類の山があった。


しかたなしに、資料を床に置くと、奥の部屋から子供の声が聞こえる。
教団に所属しているとはいえ、まだ見習いの自分に任されている仕事は、
世界中から集められてくる、異常現象の資料の分類とまだ幼い子供のエクソシストの世話係り、
いわば監視役のようなものだった。



奥の部屋から聞こえてくる会話から、部屋にいるのがエクソシストの神田とラビそして、医療班の
団員の子供、メアリーが遊びに来ていることがわかった。



普通に遊んでいると子供なんだよなぁ。。
そんな想いを胸にいだきながら、目の前の資料にリーバーは没頭していった。



「えーーーーっと、コレもただの霧の異常発
「なんでよ!!ラビ、あたしのこと好きっていったじゃない!!」

リーバーの思考は、メアリーの怒鳴り声で一気に中断された

「うぅ。かわいいとは、言ったけど好きとは言ってないさぁー」
「そんなの好きって言ったのと一緒じゃない!!だから、大きくなったら、ラビはあたしと結婚するの!」


子供らしいやりとりに、リーバーはつい苦笑する。
ラビは、子供なのに女性の扱い方がうまい。扱い方というか、もともとの人なつっこい性格に加え、大人の女性から、
同年代の女の子に対する褒め方がうまい・・・ので、自然と女性からの人気も高かった。

あー、見習いてぇ。ってか、ラビ三日前も違う子に告白されてたし、モテるやつはいいよなぁ。
俺ぐらいの歳になったら、どれぐらいすげえんだろうな・・・


などと、リーバーが考えていると、メアリーの剣幕に驚いたのか、情けないラビの声が聞こえる。

「け、結婚は無理さ〜〜」
「ダメっ!!もう決めたの!あたしと絶対結婚するの!!」














「・・・・・・ぅぅ〜〜〜〜!け、結婚はユウとするから無理なんさ!!」


パラッ、リーバーは思わず手に持っていた資料を落とした。

いやいや、あいつらよく一緒にいるなぁーとは思ってたけど。
ラビ、神田が男ってこと知ってんのか?


奥の部屋からはラビの必死の攻撃が効いたのかさっきから静寂が訪れている。
















バシッ


「っうわぁ〜〜〜〜ん。」


静寂を破ったのは、乾いた音と、それに伴って聞こえてきた盛大なラビの泣き声だった。

すぐにドアがバンッと開かれ、メアリーが走り出ていった。
親の元へと行ったのだろうリーバーには見向きもせずに駆け抜き、廊下にはバタバタと走り去っていく音が反響していた。


ドアの向こうからはまだ火のついたようなラビの泣き声が聞こえている
しかたなしに、リーバーは軽く息を吐き、ドアノブをつかんだ。



「ラビ、大丈夫かぁ??」

リーバーが部屋を覗き込むと、神田にしがみつき泣きじゃくっているラビの姿があった。
しがみつかれている状態の神田は、少し困ったような顔で、ラビの背中をさすっている。



「メアリーにぶたれたのか?痛むんなら冷やすか?」
神田とラビに近づき、しゃがみこんで、リーバーがたずねた。
返ってくるのは、ぐすっぐすっというラビの泣き声だけだった。


「どうした??大丈夫か??」
「っ〜〜〜〜〜、ひくっ、うぇ〜〜〜〜〜」
リーバーがいくらたずねても、ラビは神田にしがみついたままで、顔をあげようとしない。
ただ、神田の腕をつかんでいるんでいる手には、さらに力がこもりギュっという音が聞こえそうだ。



「おいおい、ラビそんなに泣くと目が腫れぞぉ。」
せっかくの男前が台無しだぞ、と言って少しくせのあるラビの毛をワシャワシャと撫ぜた。
そのまま神田に目をやると頬が赤くなっていることに気づいた。

「神田、どうした?頬っぺた腫れてる・・・のか?」
すると、それまで黙っていたラビが嗚咽交じりにしゃべりだした。

「っひく、メアリーがっ、ユウを、ひくっ、ぶったんさ〜〜〜〜〜。」
どうやら、メアリーの怒りの矛先はラビではなく、神田に向かったらしい。

「あーそうなんかぁ。って、えぇ??ラビがぶたれたんじゃないのか!
じゃぁ、なんでラビの方が泣いてんだ?」

「ぐずっ、だって、ユウが痛いぃ〜〜〜〜。うぅ〜〜〜〜。」
それだけ言うとまた、顔をうずめて泣き続けた。




「おい、俺は痛くないから、泣くな。」
ずっと黙っていた神田がぼそっと口を開いた。
ラビは、ブンブンと首を振り、「痛い」と言って、相変わらず泣きじゃくっている。

すると、憮然とした表情だった神田の眉間に更に皺が集まる。

(やばい、キレる・・・のか?)
あわてて、リーバーが神田をなだめようとしたのと、神田が少し乱暴にオレンジの髪をつかんで
ラビの頭を引き剥がしたのは、同時だった。








「お、おい!神田暴力は・・・・・」


ちゅっ








ラビの顔から神田が離れると、ラビはピタリと泣きやんでいた。


「ホントに痛くないから、もう泣くな。」
叩かれていない方の頬もかすかに赤くなった神田がいった。

「・・・・・うん。わかったさ。」


神田は、すくっと立ち上がり、ついでにラビも立ち上がらせた。
「おい、メアリーんとこいくぞ。」

えっ?と、とまどう表情を見せるラビに神田が言葉を続ける。

「メアリーのこと嫌いじゃないんだろ?」
「・・・・・・うん。」
「じゃぁ、仲直りして来い。俺もついていってやるから。」


「ん。」


ラビの手が神田の手をキュッと握り、二人は部屋を出て行った。







取り残されたリーバーは、ゆっくりと立ち上がり
(最近の子どもはスゲーなぁ、やっぱ子供同士のことは、子供だけで上手くやるんだな。
今度から、仲裁に入るのはやめよう・・・・。)


「・・・・・神田、意外としっかりしてるんだな。」
一人つぶやき、相変わらず、資料の山と化している机を睨みつけた。








































「センパイ。チェック終わりました〜〜〜〜。」
「おお、実習生。ご苦労さん。」
ポンと先輩に肩をたたかれ、ようやく資料の山から解放された。

科学班のドアを閉め、腹の主張に従い、食堂へと向かおうとすると、廊下の向こう側から、
神田が歩いてきた。



訓練の帰りだろう神田は、自分の背丈ほどもある刀を斜めにして背負っている。

「神田、神田。」
と、声をかけるとリーバーの方によってくる
リーバーの前で止まると、キョロキョロと周りを見わたし、「だっこ」といって両手をのばしてきた。


さっきは、しっかりしてたのになぁ、と苦笑しながらリーバーは神田を抱き上げた。

「ラビは?」
「ん、メアリーと仲直りしてたぞ。その後は、ブックマンのトコに行った。」

神田は抱き上げられると、リーバーの首にかじりつくように手を回す。

顔が近づき、リーバーは頬の赤みが引いている事を確認する。
しかし、たたかれた時に爪でもあたったのか、頬には小さな切り傷ができている。

「神田、ちょっと傷できてるぞ。消毒するか??」
そう声をかけた途端、神田の目にジワっと涙が浮かんでくる。
が、すぐにグイっと袖口でぬぐい、「すぐ治る」と短く答えた。



(あー、やっぱりさっきはガマンしてたんだよなぁ。)

「さっきは、えらかったなぁ。」
と言って、ポンポンと頭をなでた。

「俺のほうが、今は年上だからな。」
ちょっとだけほこらしげに、神田は言う。


「なぁ、リーバー?」
「なんだ?」

「『けっこん』ってなんだ?」


ずるっと思わず神田を落としそうになる。
(ああ、やっぱりどういうオチか。道理で反論しないハズだ)

「あー、なんていうか、大人になってもずっと一緒にいることだな。」
「ふーん。なら、メアリーともけっこんしてやればいいのにな。」


「いや、ちょっと違ってな。結婚は・・・・・一人としかできないんだ。
なんつーか、ああ、母親と父親になる前の二人が一緒になるって誓う・・・ことかな?」

(上手く説明できねぇな・・・・。ってか、なんでおれがこんな説明を。)
若干、父親のような心境を感じながら、うう、と考え込んでいる神田の横顔をみた。

「でも、お前らラブラブだったんだな。」
「ちちおや・・・・、ははおや・・・・」と呟いていた神田が怪訝そうな顔に変わる。
が、神田がラビにキスをしたことだと思い当たったらしく、

「・・・・あぁ、アレのことか。あれするとラビいっつも泣き止むぞ。
今度、リーバーもしてやれ。」

「や、俺はいいわ。もっと泣かれそうだし。」

(ラビ・・・、たまにわざと泣いてるんだろうな)
ハハ、と笑いながら、リーバーがラビのまだ届いてはいない恋心にほんの少しの同情をよせていると、
背後から、「ずるいさーっ」のかけ声と共にドンっという衝撃が背中に襲った。
「オレもーっ」っといいながら、ラビが背中にしがみついて来る。


リーバーは、少し気合を入れて、右手に神田を抱えなおし、
背中にしがみついて来るラビを左手に抱き寄せるとキャッキャッという笑い声が生まれる。



(腰痛てぇ、この歳で腰痛めたらどうしよう・・・・)
腕の中に、確かな重さを感じながら、一抹の不安と確かな願いが胸をよぎる。









――――――どうか、どうかこの小さな背中に背負わされる未来が明るいものとなるように