「小僧、集中するのもいいが、メシはちゃんと食っとけよ。」

久々に聞いた人の声がジジィだったことに、うんざりして適当に返事をする。

埃っぽい書庫の中で、資料をむさぼるように読むラビにとっては、師匠の声すら邪魔だった。

一通り、目を通した資料は、バサッと床に落として、ジジィが持ってきた新しい資料に手を伸ばす。

雑然とした机の上には、新しい資料とその横にラップのかかったサンドイッチ。


プラス『ほどほどにせい』というジジィの走り書きのメモが一枚。

ピラッとメモ用紙を指で挟み、紙飛行機を作る。

飛ばそうとして、ふと手を止める。



『はっ、バッカじゃねーの。子供っぽい』

聞こえた気がした。

憎まれ口をたたく彼女の声が。

バカにしたように鼻で笑う彼女の低めの声が。











紙飛行機とチョコレイト













書庫をでたのは、3日ぶり。

教団の外にでたのは、1週間ぶり。

教団の中庭で思いっきり、息を吸う。

ロンドンの特有の冷たい空気が、肺の中を覆う。

薄暗い明るさの中、時間を確認してこなかったラビは、今が夕方なのか、明け方なのかも判断がつかない。

それくらいブックマンの仕事に熱中していた。

エクソシストとブックマン。

本職はどちらかと言えば、もちろんブックマンなのだから、教団もブックマンの仕事の時間を与えてくれる。

それに、甘えて度々、ラビは書庫にこもりっきりになる。

そして、いつもブックマンの仕事明けには、仕事をしたという充実感よりも、膨大な情報に飲み込まれていたという

疲労感とも少し違う興奮とも呼べる感情が体の中に残る。

任務明けに凶暴になる彼女と同じように、ラビもブックマンの仕事明けには若干凶暴になる。

もちろん、それに気づくのは教団のなかでは、ジジィともう一人しかいないのだが。













「あー、会いたいさぁー!!」

ドサッと乱暴に体を地面に倒す。

少し走った体の痛みは無視する。

寝転んだまま、空を見上げると腹が立つほど高くて広い空だった。

「ユウーッ!!ユウーッ!!」

馬鹿にしているような空に自分の絶叫を飲み込ませると、少しは気が晴れた。

今日は、ユウの部屋で寝よっと思って、ポケットの中の合鍵を確認するとラビは勢いよく立ち上がった。





教団の中を歩くと、やっぱり今は明け方なのか、廊下を歩く人間の数が異様に少ない。

階段をおり、全く人気のない廊下にたどりつき、少し先方を歩いていた人物を見つけると、後ろから羽交い絞めにした。


「っ!!やめっっろっ!!」

くぐもった声で抗議するのは、さっき脳裏に聞こえたのと同じ声。

「ユウちゃ〜〜ん。後ろ取られるなんて、腕なまったんじゃねーの?」

抗議されてもやめるどころか、前に手を回し後ろからギュッと抱きつく。

そのまま、彼女のきれいなうなじに顔をうずめて、彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

ユウがブルッと身震いした。

「お前だって、気づいてたんだよっ!!気ぃ立ててんじゃねぇよ!!」

「さっすが、ユウ。んじゃぁ、部屋行こー。」

後ろから抱きしめるのは、ユウが苦手なのを知っていてわざと手を離さない。

そのまま、半ば引きずるようにユウを引っ張る。

「連絡くれたって良かったのにさ。」

ボソッと呟く。

自分でも気づかないうちに、ユウの体温を感じて、安心したのか、いつもの口調が戻ってきた。

「ブックマンの仕事だったんだろ??」

「んー。」

「帰って来たのは昨日の晩だったんだよ。」

ユウがあやす様にラビの腕をポンポンとたたく。

それでも、気のおさまらないラビはユウを腕の中に閉じ込めたまま、身長差を利用して、ユウの頭を甘噛みした。

「何やってんだ・・・。オマエ。」

「う゛ーーー」

あきれたようにいうユウに獣のように唸って答える。

「ブックマンの仕事は終わったのか?」

「あと、いそがない分が残ってるーーーー。でも、紙飛行機作ったら、ユウに会いたくなったんさ。」

「紙飛行機?ハッ、バッカじゃねーの?いつまでそんなもん作ってんだよ。」

脳裏に浮かんだ声をまったく同じ状態にむぅっとむくれる。

ユウをズルズルと引っ張り、吼えた。

「でも、オレがんばったもん!!徹夜で、ご飯もあんま食べずに三日間がんばったもん!!
それなのに、ユウってば任務から帰ってるのに連絡もしてくれないなんてさっ!!」

腕の中では、ククッと押し殺した笑い声に、ラビはさらにむくれた。

「すっごい、すっごいがんばったのにさ!!ユウにちゅうしたかったし、えっちしたかったし、
ユウのおっぱいさわりたかったのに、全部ガマンしてたのにさっ!!」

「おいっ!!廊下でなんて事言ってんだ!!」

ジタバタと腕の中の神田があばれだす。

恐らく、すっごく赤面しているだろうと思い、ちょっとは胸がスッとする。

「なのに、ユウってば、紙飛行機つくったら、念波で、声飛ばしてくるし。」

「はぁっ!?」

ユウの部屋に着き、ポケットから合鍵をだす。

片手でユウをがっちりホールドし、器用に片手で部屋を空けた。

部屋に入ると、後ろでに鍵を閉めたのを確認する。

「だからっ、今日はいっぱいユウに甘えるんさっ!!」

宣言したのと同時に、かぶりつくようにユウの唇をふさぐ。

「っん、まっ・・ん〜〜〜。」

抗議するユウの言葉は無視して、ユウの唇をむさぼる。

軽くユウの唇を甘噛みして中に舌を滑り込ませる。

久々のユウの咥内は、すこしヒンヤリとして気持ちよかった。

歯列をなぞり、奥で縮こまっている熱い舌に這わすとザラッとした特有のしびれる様な感覚が襲う。

ユウの体もビクッと痙攣し、体のチカラが抜けてきたのかユウの腕がオレにしがみついて来る。

俺の中の征服欲がウズウズと騒ぎ出す。

そのまま、ベットにユウを押し倒した。

「いっ!ハァッ、ハッ、ラ・・・ビ・・ちょっと待て。」

ユウはいっつも、待てとか嫌だとか言う。

でも、それが本心じゃないことを知っているから、また唇を重ねようとした。

バシッ

「いっ!!」

今度はオレが悲鳴をあげる番。

なんせ、ユウに重ねようとした唇は、ジンジンとしている。

なぜなら、ユウが殴ったから。グーで。

「ユウッ!!ひどいさっ!!」

「待てって言ってんだろうが、馬鹿ウサギ!!」

そういうとユウはオレを押しのけベットから、立ち上がった。

あまりの仕打ちにスンスンと泣きまねをしてみる。

ユウは全く気にする様子もなく、団服をハンガーにかけている。

「そんなに、痛かったのか?」

オレの泣き真似に根負けしてか、ユウがそう聞いてくる。

「めっちゃ、痛かったさぁ〜〜〜〜。」

「見せてみろ。」

グィッと顔を上げられて、唇にユウの指が触れたと思ったら、咥内に強い甘さが広がる。

「ふぇっ?ひょこれーと?」

「疲れたら、食えって言ってたのお前だろ。」

ニヤッと少し指先が茶色くなったのを舌で舐めとりながら、ユウは笑う。

そして、ボスッとスウェットが投げつけられる。

「起きたら、相手してやるから、寝ろ。」

「えーっ!!寝たら、爆睡しちゃいそうさー!」

「だから、寝ろつってんだろ・・・・。」

ぶーっと不満を言いながら、ユウの渡してくれたスウェットにもぞもぞと着替える。

「今日は、ユウにいっぱい甘える日なのに。ユウのバカ!」

「だから、甘えろよ。疲れてんだろ?」

まっすぐに瞳を捉えられてドギマギする。

ユウの瞳は、大好きだが一度捉えられると、そこから離れることができない。

ポンポンと頭をなでられ、バンダナもするっと外される。

「チョコは?」

「・・・・もうちょっと、いるさ。」

ユウが何粒か、チョコを差し出したが、プイッと横を向く。

ユウの眉間にシワがよるが、無視して、口を大きくあけた。

「子供かっ!」

そういいながらも、ユウは口にチョコを運んでくれた。

チョコの甘さが喉を通り、ユウに渡された水をゴックンと飲んでいると高ぶっていた神経が納まり、眠気がゆるやかに襲ってきた。

「ユーウー、添い寝ー!!」

ベットにゴロンと横になり、空いたスペースをポンポンとたたく。

「チッ」と言いながらも、ユウは布団に入ってきてくれる。

団服脱いだのってその為じゃないの?という疑問は心にしまっておく。

「なー、ユウー、知ってる?」

ささやかながらも、フワフワのユウの胸に顔をうずめながらしゃべる。

「男ってさー、種の保存のために、疲れてると「死ぬ」と体が感じて、ビンビンになるんさよ。」

「じゃぁ、今死ね。」

硬いものをユウの腰に擦り付けていたことがばれて、怒られた。

「こんななってるオレが、寝て体力回復したら、ユウやばいさよー?」

「ハッ、上等だ!!満足させてみろよ。」

余裕ぶるユウにカチンときたが、包み込むやわらかさと温かさには勝てず、眠りに落ちていってしまった。






















目を開けると、窓から、オレンジ色の光が差し込んでいた。

結構、寝たせいか、心地よいダルさが残っているだけだ。

「ん゛ーーーーーーっ!!」

思いっきり伸びをすると横には、ユウの姿はなかった。

変わりに、書置きが一枚。

『報告書出しに行ってる。終わったら戻る。』

ユウからの手紙なんて貴重だから、残しとこうと丁寧にたたんだ。

団服に着替えていると、ゴミ箱に捨てられたチョコの包み紙を発見した。

取り出して、ふと笑みがこぼれて来る。

甘いものが嫌いなユウが自分の為になら、もってるはずのないチョコの紙。

茶色い包み紙は捨てられちゃってるけど、紙飛行機の形に折られていた。

紙飛行機の中を広げると、報告書のペンの験し書きだろうペンの跡。

その端っこに書かれた小さなラクガキ。

この言葉は、ラビを大絶叫させるには十分な原動力となった。



「ユウーーーーーーっ!!!!!!愛してるーーーーーっ!!!」


























――――――――――――――――I MISS LAVI





















高月杏樹様へ相互お礼小説
『ラビュ嬢甘甘』
空河は日本語が理解できなかったようで、甘ったれラビとツンデレユウたんになった。
高月様すみません!!受け取っていただいて感謝です!!