「あー、合コン。ダルイさー。」

神田ユウが自分のマンションに戻るとベットに寝そべったオレンジ色のウサギがそう言ってのけた。

玄関に脱ぎ散らかしてあるスニーカーを足でどけ、自分の靴をそろえてあがる。

初夏とはいえ、汗が出てくるような外の陽気に比べ、家の中は涼しくて、ホッと息をついた。

「今日は、S女子大となんだってっさー。」

めんどくさいさー、と呟いているウサギを無視して、冷蔵庫から一本ミネラルウォーターのペットボトルを出して口をつける。

乾いていた喉には、驚くほど冷たく水は胃に落ちていく。

「めんどくさいなら、行かなきゃいいだろうが。」

学生の一人暮らしには妥当な1Kのマンションでは、ベットと小さな机を置くともう余分なスペースはなく、

ベットをウサギに占領されている為、仕方なく床に腰を下ろした。

「そういうわけにもいかないんですー。」

つきあいってもんがさー、相変わらずベットの上でウダウダ言っているウサギは、同じ大学の同級生のラビだ。

大学だけでなく、中学から同じガッコでいい加減腐れ縁にも飽き飽きしているころだ。

お互いそう言い合いながら、なぜか気づくとつるんでいる。

大学生なんて、バイトと合コンの為に用意された身分だとラビは常々言っていた。

その言葉通り忠実にバイトと合コンに励んでいた。

そのくせ、持ち前の容量の良さと半端ない頭の良さで実は、大学の首席だったりする。

おかげで恩恵を受けて、神田も単位を落とさずにいるので、まぁ感謝だ。

「どうせ、必要以上に盛り上げて気疲れするんだよ。オメェの場合。」

サービス精神もたいがいにしろ、と言ってうちわを手にするとあおいだ。

パタパタとゆるい風が若干汗ばんだ肌には気持ちいい。

「だってさ、行ったら盛り上げないと悪いじゃん。」

「はっ、そんで盛り上げるだけ、盛り上げていつも収穫なしだろうが。」

口の端のクッとあげて笑う。

ラビは、合コンでは勝ち組な方だと思う。実際は、見たことはないが。

派手なルックスに整った顔、話もおもしろいし、大学でもよく女子に囲まれている。

なのに、いまだに彼女を作らない。いや、時々はできているんだが、こいつの彼女は長続きしたことがない。

「収穫はありますー。合コンで仲良くなった子いっぱいいるしさ。」

オレの言葉に気を悪くしたのか、むぅっと膨れてラビは言う。

さらに、ほら見てー、と言って携帯のメモリーを見せる。

そこには、キレイに分類分けされた女の名前でいっぱいだ。

「あー、わかったわかった。でも、合コンめんどくさいなら、とっとと彼女作ればいいだろ。」

「んー。それも、めんどくさいさ。」

「ハッ、めんどくせえのはオマエだ。」

ベシッとあおいでいたうちわの角でコイツの頭をはたく。

「痛いさぁ!!ひど〜〜いい、ユウちゃん!」

女口調で抗議するラビを見て、夕飯一人分なら、蕎麦にするかなとぼんやり考えた。

大学生活は、バイトと合コンの為とラビは言うが神田だって変わりはしない。

合コンにいかないだけ、部活に行ってるだけで部活とバイトの日々だ。

高校の時に、考えたほど大学の講義にはまじめに取り組まず、こんなもんでいいのかとどこかで問う自分がいる。

4年間振り返ったら、空っぽだったということにならなければいいが。




「ユウもさー、合コン来たらいいじゃん。絶対モテるよ?」

「ぜってー、嫌だ。」

「そんなん言ってたら、出会いないさー。剣道部なんて、男ばっかでしょ??」

携帯をいじりながら、ラビは言う。ベットから、手を伸ばし神田が置いたペットボトルを取り、器用に寝たまま一口飲む。

「あー、でもやっぱ嫌かも。ユウに彼女できたら・・・。」

「どっちなんだよ?」

「だってさー、彼女できちゃったら、こんなに入り浸れなくなるし。ユウと格ゲーとかしてる時にユウの彼女から、電話かかってきたらさめるしさー。」

大学首席の妄想はさすが、細部まで完璧だなとあきれて、神田は夕飯を作りにキッチンへ向かった。

冷蔵庫の中身をチェックして、意外にメシがたくさん残ってるなと思った。

すると、聞こえたのは、妄想中の大学首席の絶叫。

「あーあ!!子供欲しいー!!」

「ああ、うるさい!彼女もめんどうな奴が子供なんてどうすんだ!!」

何をどう妄想したら、子供が欲しいという結論に至るのか、大学首席の頭の回路を一度のぞいて見たいものだ。












「・・・・だってさ、誰かに俺らの子供生んでもらって、ユウと育てられたら、チョー楽しそうじゃね?」

「ハッ、バッカじゃねーの。」

口の端をクッとあげて、笑いながら、想像したら、確かに、確かに、楽しいかもと・・・・バカだけどそう思った。




















だって僕らはピーターパン

4年間は、きっとこんなくだらないキラキラした思い出がいっぱい

振り返るときは、一つでも思い出して、口の端を上げて笑って!!




































「ユウー!!今日、ご飯2人分だからね!!」

「つきあいはどうした!!」

「たまには、いいんですーー。ご飯冷蔵庫にいっぱい入ってたから、今日はオムライスさね!!」