「ラビってほんとすごいですよね〜〜〜。」

恒例のユウの無視の背中に「これから鍛錬さ?がんばってー!!」と声をかけていたら、そう言われた。

「・・・・・?へっ?」

「いえ、ラビの特にドコも尊敬することろなんてないんですけど。」

振り返ると、丁寧な言葉とは裏腹にとんでもない暴言を吐いているアレンが、資料を片手に後ろに立っている。
ほんとに女性相手にはほんとに優しいフェミニストだが、男の(特にオレ)に対する扱いがひどすぎる気がする。

そんなアレンが、目線はだいぶ離れていったユウの背中に追いかけ、しみじみと言い放った。

「・・・・・ほんと、ラビが神田と付き合ってるところだけは、すごいな・・・って思います。」

「??なんでさー?」

確かにユウとアレンはウマが合う方ではないが・・・というか犬猿の仲だが、だからといってオレを尊敬とはまではいかない気がする。
チラリとアレンの持ってる資料を覗き込めば、先日終わった任務資料のようだ。なんだか、お菓子の油の跡が残っているが・・。
ユウの背中を追っていたアレンの目線がオレに戻り、思案顔で訊ねる。


「・・・だって、見返りを求めない愛って感じですよね??」

「そうさー?結構、求めてるけど・・・・。」

突然の発言にビックリする。ユウと付き合ってる事を直接、深く聞かれないからなんか新鮮だ。
ユウは表だってイチャイチャする方じゃないから、周りから見ると、かなーり淡白に映るだろうが。
特に、スキンシップの多い国の出身者には・・・。
「だって・・・。」とアレンが言葉を続けた。

「返ってきそうにないじゃないですか、『好きだ』とか『愛している』とか絶対言う人じゃないでしょ?行動も可愛げがなさそうですし・・・・。」

まぁ、実際ユウがそんなことを言い出したら、まっさきにコムイに変な薬を飲ませてないか疑いそうだが・・・。
なぜかアレンの方が、不満気にちょっと怒ったように言葉を続ける。

「これだけ好きなんだから、同じように「好き」返してもらえないとたまに腹が立ったりしません?これだけやったのに・・・・とか。」

ああ・・・、アレンも誰かを好きになったのかなとちょっと微笑ましく思う。
もしかしたら、恋愛感情の「好き」とは違うかもしれないが、誰かの事を信頼して期待できるようになったんだなと安心する。
・・・・子供・・・・ですかね?とアレンはちょっと照れくさそうに資料を抱えなおす。

「そんな風に見えるんさ?」

「ほんとに見返りを求めない「好き」って言うか・・・。与えるだけの愛なんて・・・。」

ラビにできる筈もないと思うんですけど!!とわざと毒舌で、付け足す。
そんな言い方しなくても・・・と苦笑いしてしまう。

「それとも、そういう気持ちを超えられるくらい好きなんですか?」

「うーん。オレは聖人じゃないから、愛に見返りを求めちゃいけません。愛に見返りを求めるのは偽善です。っていう考え方はしてないさ?」
良いことしたら、褒められたいとか、優しくしたら、好きになってほしい、とか思うことは悪いことじゃないって思ってる。」

ま、カトリックの教団でこんな言葉もまずいけど・・・。
ちょっとだけ自分の考え方をアレンに話す。上手く伝わるか自信はないけど。

なんせ、本業のブックマンは記録するのが仕事で、思考を言葉にするのは専門外だ。

「人間ってやっぱりそういう気持ちがあるからこそ、良いことしたり優しくするやる気につながると思う。」

もちろん、そればっかり求めてちゃしんどくなるけど・・・、と笑う。
一つのことに見返りを求めてたら、その見返りがなかった時に、人は大きく落胆してしまう。

「じゃぁ・・・、ラビもしんどかったり、腹が立ったりするん・・ですよね?」

「・・・・・。ぅーっと・・・、あんまない・・・かな?」

記憶を手繰り寄せれば、ユウとの恋愛で苦しいとかしんどいとか思ったことがほとんどないことに、自分でもビックリする。
一時的に腹を立ててのケンカとは、あったけれども・・・。

オレの言葉にアレンがムゥっと不満気に呟く。

「・・・矛盾してませんか?」

「だから・・!!だから・・、オレは、見返りもらってるから!!」

違う!違う!!と言い返すと、アレンも負けじと言い返してくる。

「・・・神田から好きっていわれてるんですか?優しくしてもらってるんですか?」

ものっすごい疑惑のまなざしでこちらを見られる。
そんな・・、言われても、何しろあのユウだし・・・ねぇ?

「うーんと。言葉では言われないかな・・?」

「ほら!やっぱり!!ラビの話は参考になりません!!」


僕、急ぎますから!!とちょっと怒り気味にアレンが走っていってしまう。
ああやって、怒りっぽいくなったのはユウの影響かなーと苦笑する。

自分の感情を外に出せようになるくらい、他人を信用できるようになったのだと、アレンも随分変わったな・・と思った。




「好き」という言葉では帰ってこないかもしれない・・・・。

キスやハグで愛情表現されることは少ないかもしれない・・・・。

それでも、それでも・・・・。


ユウを好きという気持ちが自分を幸せにさせる。
ユウの事を考えるだけでも、なんか嬉しくなる。


それだけでも、十分なまでの見返りなのに・・・・。
もしかしたら、オレのあげている『好き』の気持ちよりも大きい気持ちをもらっているかもしれない。




ユウの瞳が


ユウの声が


ユウのしぐさが、行動が


『好きだ』とオレに告げる。