君は誰のために咲いてるの?
誰かに見てもらうためじゃないの?
月見草
「ゲッ、神田だ。」
「あっち行こうぜ・・・・。」
「また任務先でファンダーと揉めたらしいぜ。」
ヒソヒソという声が聞こえて、アレンが目線をあげるとちょうど食堂にエクソシスト神田ユウが現れたところだった。
食堂は込み合っていたのに、彼の周りだけサッと人ごみが退き、そこだけ静かな張り詰めた空気が漂っているのが、ずいぶん離れた席に座っている自分にも手に取るように分かる。
彼は教団筆頭の腕の立つエクソシストだが、その性格はお世辞にも人当たりが良いとは言えず、歯に衣着せぬ物の良い様、女顔に似合わない喧嘩ッ早いところなどからかなり敵が多い人物なのだ。
かなりというか・・・・・、教団のほぼ全員?が彼のことを好意的に思ってない人物ばかりだ。
かくゆう自分も神田とは犬猿の仲。
一応、喧嘩しないようにと努めようとしているのだが、気がつくといつも殴りあいの喧嘩に発展してしまう。
今日は、事を荒立てないように、距離をとっているのが正解かな・・・?と思いテーブルの上の食べ物に再び集中し始めた。
「おー!アレン相変わらずすっごい量さ〜。」
妙に間延びした声が上から降ってきて、顔をあげると同じくエクソシストのラビの顔があった。
ラビのちょうど食事に来たらしく、トレイを片手に持っている。
「あ!ラビ。今から食事ですか?一緒に座りますか?」
豪快にとスパゲティを飲み込んで、新しいスパゲティをフォークに大量に巻きつけながら、聞く。
問われたラビは、テーブルの上を見渡しウーンと唸る。
「ありがてぇけどさ。アレンのテーブルそれ以上トレイ置けないさ。」
ちょっと肩を竦めて、苦笑される。
まぁ、確かに社交辞令で聞いてみたものの、テーブルの上はあふれんばかりの食べ物が置いてある。
これでも、この後鍛錬に行こうと思っているので、控えめにしたつもりなのだが・・・。
「あ!ユウいるさ。ユウんトコ行って来るさー。」
空いた片方の手を軽く上げて、ラビは神田の方へと向かう。
思わず、物好きな・・・・・と思ってしまって、目を追う。
自分は絶対に、楽しい食事の時まで、神田と一緒に居ようとは間違っても思わないのだが。
混んでいる食堂とは、場違いに広いテーブルに神田は一人座り、蕎麦をすすっている。
ファインダー達は、間違っても側に近寄らない、同じテーブルに座るという事は、喧嘩必至というのが、教団の暗黙の了解―――――。
入団当初神田の後ろのテーブルでしゃべっていたファインダーと神田が乱闘騒ぎになったのを止めたことは、随分前のように感じる。
まぁ、あのテーブルに近寄れるのは、影の教団最強と言われるリナリーとコムイさん、それにリーバー班長に割と科学班の皆は友好的なように、思うが。
あと、忘れてた。現在、神田のテーブルに接近中のブックマンJr.のラビだ。
食堂は他の会話にあふれているし、テーブルもかなり離れているので、神田の横に座ったラビと神田の会話は、全く聞こえてこないが、ラビが遠目にもかなりマシンガントークを繰り広げているのが分かる。
ラビは、神田の顔を横から覗き込むように話しかけているのに比べ、神田は一切ラビの方向を向いていない。
あれで、会話がなりたっているのか、かなり謎だが、ラビは相変わらず身振り手振りでしゃべり続けている。
あの神田に対して、しゃべり続けられるなんて、ラビはなんて、鉄の精神なんだ!と感心したところで、神田が突然席を立ち、トレイを返却口に持っていってしまった。
ラビはそんな神田に対して、動じる様子もなく、神田の後姿に対して、ブンブンと大きく手を振っている。
もちろん、神田はラビに対して、振り返る事はなかったが。
ラビは神田をよく見つける。
一緒にいて、気づいた事だ。
確かに、神田は教団本部では珍しく東洋人の顔つきをして目立つ存在ではあるし、側によると張り詰めた空気が漂ってくるので気づきやすい存在ではある。
リナリーやコムイさんも東洋人だが、教団の空気に馴染んでいるため、違和感はないのだが神田の周りを取り巻く空気感が、それを一層際立たせる。
それでも、かなり神田が離れているのに、ラビは神田の姿を見つけるし、普通の人なら、神田と関わらないように道を迂回しようとまでするのに、彼はフラフラと神田に近寄っていたりもする。
今日もそうだ、かなり廊下の遠くのほうから、歩いてくる神田をみつけ、「あ!ユウー!」とひらひらと手を振った。
任務資料に目を通していたはずなのに、よく気づくなと半分感心しながら、つられて彼の視線の先を見ると、いかにも任務直後の機嫌の悪いオーラ全開の神田がいた。
思わず、こういう時の神田と何度か衝突した事を思い出し、苦笑いを浮かべてしまう。
「ユウー、今任務から帰ったんさ?」
「・・・・・・お疲れ様です。」
一応、挨拶をして、ペコッと頭を下げるが、神田は僕らを一瞥すると小さくフンッと言って、全く歩調を緩めずにすれ違ってしまった。
すれ違う一瞬にラビが「お疲れ、お疲れさー。」といって、ポンッと肩を叩いたのにはほんと感心するが。
「神田っていっつも、愛想ゼロですよね。」
「あ?あーまー、そうさ?愛想振りまくユウっていうのも怖い気がするさ。」
ヘラッと笑うラビに思わず毒気を抜かれる。
そして、ふと頭に疑問がよぎる。
「神田って恋人できたら、どうなるんですかね?」
「んんー?別に変わらんさ。」
「ってか、神田を恋人にしようと思う人なんているんでしょうかね?」
「あははー、アレン。本人目の前にして、失礼さ。」
ラビの言葉に神田が戻ってきたのか、と思ってゲッと後ろを振り返る。
だが、神田の姿はとっくに消えていて、廊下にいるのは、自分の隣でクルクルと任務資料を丸めているラビだけだ。
・・・・・・?
「あ、あのー・・・・ラビ?」
「ん?なんさ?」
ラビの顔をチラリと盗み見るがさっきと全く変わらない上機嫌そうな顔のままだ。
いやいや、流石にそんな事はないない、ただのラビの言い間違えだと思いつつ念のため質問してみる。
「ラビって、まさか・・・、神田と付き合ってたりしないですよね・・・・?」
「ん?付き合ってるさ?アレン知らんかったんさ?」
「・・・・・ラビ。今日エイプリルフールじゃないですよ・・・・?」
ありえない!ありえないありえないありえないと連呼していると、「ひどいさー、アレン。後で、リナリーに聞いてみ?」と言っているからには、本当の事なのだろう。
これで、ホントに嘘だったらイノセンスでぶん殴ってやる。
イヤ・・・、その前に神田に告げ口してやろう。
「全っ然、そんな風には見えなかったんですけど・・・。ちっとも!!これっぽっちも!!」
「そ、そんな力入れて言わなくてもいいさーっ!まぁ、ユウは人前でいちゃいちゃするタイプでもないしねー。」
それにホラ、男同士だし!そんな少女漫画みたいな事もしないしさーと付け加えられる。
それを差し引いたとしてもだ。ラビと神田がつきあってるなんて想像もしなかった事なのだが・・・・。
というか、ラビが神田の事を好きになったのも驚きだし、あの感情も全くなさそうなサイボーグの様な神田が全うに人と付き合えているのかも謎すぎる。
神田に知られるとまた喧嘩になりそうな事を考えながら、ラビに恐る恐る問う。
「か、神田のドコを好きになったんですか・・・?・・・・っていうか、普通に付き合っててする様な事を神田とするんですか?」
ラビの顔をチラッと見ると、キョトンとした顔でこちらを見返される。
そして、お得意のヘラッとした笑顔を浮かべた後、ニヤニヤとした表情に変わる。
「なになにー?アレンもそんな事気になっちゃう年頃なんさー!?」
でも、18禁になっちゃうから教えてあげなれないさー!と言われて、丸めた任務資料でポンポンと頭を叩かれる。
あまりにも、イラッとしたのでその場でイノセンスを発動してしまった。
「おい。緊急事態って何だよ・・・・。」
顔を引きつらせながら聞いた自分の質問にニコッと笑顔で答える幼馴染にガクッと気が抜けた。
鍛錬中に室長室に呼び出され、「とにかく至急で、街に降りてくれ!!」と言われ、任務資料も持たされないまま急かされた。
街にアクマでも発生したのかと思い、とりあえず愛刀六幻だけを持ち、街に急いだ。
言われた広場にいたのは、大量のアクマ・・・・ではなく大量の紙袋と室長の愛妹で幼馴染のリナリーだった。
確かに、ファインダーも他のエクソシストも動かされない中、自分一人で向かえと言われた事に違和感を感じなかった自分が悪いのだが、ついついため息がもれる。
何度、リナリーの荷物持ち兼夜道の護衛に駆り出された事だろう・・・・。毎回毎回手法を変えられて、騙されてきた。
「・・・・素直に、荷物持ちに来いって言えよ。」
「イヤよ。そしたら、神田来てくれないでしょ?」
「別に、俺じゃなくても、誰かは行くだろ・・・・。」
「神田がいいの!!・・・・・遠慮しなくていいし。」
愛くるしい顔とは反対の強い意志表示に、反論をあきらめる。
もっとも、最初から口論で彼女に勝てるとは思ってないのだが・・・。
さっさと帰って鍛錬の続きがしたいと思いリナリーの紙袋を持ち、足早に歩き始めると、「夜風にあたりながら、ゆっくり帰ろう。」と後ろから声が聞こえる。
ジャリッと地面の砂を踏みしめた自分の黒いブーツは、自分の意思とは反して、速度を落とした。
夜ともなると随分気温が下がるな・・・・と思っていると、隣から明るい声が聞こえる。
「あ!!見てみてっ。月見草が咲いてる。」
フワッと花が咲いたように笑う彼女の視線を追うと川原には薄明かりをともしているのかと思うくらい一面に黄色く光る花があった。
彼女が川原に下りていくのを追って行くと、鼻腔をくすぐるいい香りが漂う。
これだけ群生しているのに行きは全く気がつかなかった。
「神田知ってる?月見草ってね。夜しか咲かないんだよ?」
「ふーん。だから、たまに通った事あるのに、気がつかなかったんだな・・・・。」
花の名前などはうといが植物を育てたりするのは、割と好きなので、これだけ群生していたら、流石に気づくはずだ。
いつも、川原は赤茶けた色で、花が咲いているようには全く見えなかったのだが・・・・。
「なんで夜だけ咲くんだろうね?誰に見て欲しいんだろうね?」
「誰にって・・・。別に、花はんな事考えていねぇだろ。」
かがんで、月見草の匂いを嗅ぐリナリーのロマンチックな発言に思わず苦笑する。
さすが、考える事が自分とは違う・・・・。
しかし、見事に川原一面に生えてるなと目を奪われているとリナリーが振り返る。
「今度、ラビも誘って一緒に来たら?」
「はっ?」
「ラビもきっと見たらビックリするよ?こんなにきれいに咲いてるんだもん。」
「・・・・別に、見に来たきゃアイツ一人で見に来るだろ。」
18の男が花を見て、キャーキャー言うはずも無いだろうし。
夜風もだいぶ冷えてきたのでそろそろ帰ろうとジェスチャーする。
あんまり遅くなると彼女の兄から、あらぬ疑いをかけられかねない。
大人しくついて来たリナリーだが、後ろから呟くように声がする。
「そんな可愛く無い事ばっかり言ってたら、ラビも愛想つかしちゃうよ??」
「・・・・。」
「教団にだって、かわいい女の子いっぱいいるし、ラビだってモテるんだよ?」
チラリと後ろを振り向けばちょっと怒ったようなリナリーの顔がある。
リナリーの言いたい事は、なんとなく分かって、ため息がもれる。
ラビが俺以外の人を好きになったらどうするのだ、とこの幼馴染はたびたび心配して声をかけてくる。
やれプレゼントをしろ、もっとデートしろだの提案してくる。
その度に軽くあしらって来たのだが・・・・。
「別に、ラビが俺の事を好きだから、俺がラビを好きなわけじゃない。」
自分の気持ちを言葉にするのは苦手だ。
むしろ、他人に気持ちを理解してもらう気なんてサラサラ無い。
だけど、この幼馴染だけは伝えときたくて、口を開く。
「ラビが他の奴を好きになっても構わない。むしろアイツの将来の事を考えたらそっちの方が絶対良いって思う。
ただ、俺がラビが好きなだけだから・・・・・。」
「・・・・神田。」
ああ、ダメだ・・・。やっぱり上手く伝わらない。
それでも精一杯自分の言葉を理解してくれようとする、人一倍他人の幸せに敏感な幼馴染の頭を軽く撫で、帰り道を促した。
「神田ってほんと性格悪いよな・・・。」
「オレ、あいつとだけは任務組まされたくねーよ。」
談話室でボソボソと神田の陰口が聞こえる。
正直、犬猿の仲の自分でさえ良い気持ちはしない。
なのにこの隣の男と来たら、なんなんだろうか?
あきらかに自分の恋人の陰口が聞こえているというのに、ムッとするどころか、フンフン♪と上機嫌に鼻歌を歌いながら新聞に目を通している。
自分がもし付き合っている人の陰口がこんな風に聞こえて来たら、自分の事のように怒ると思うのだが・・・・。
ラビは、ホントは神田の事がそんなに好きじゃないのかな・・・・?という考えがよぎってしまう。
「ラビ。さっきファインダー達が神田の陰口言ってたの聞こえてました?」
談話室を出て、ラビの他に廊下に誰もいないのを確認して問う。
神田の陰口がヒートアップして、聞くに堪えなくなって、ラビを誘って談話室を出たのだ。
「あー。言ってたさね〜。」
「・・・・・・腹が立たないんですか?自分と付き合っている人なのに。」
「んー?別にー・・・・。ストレス溜まる社会にいたら、誰かの悪口言いたくなるでしょ。」
てかさー、お腹減ったさー!このまま食堂行く?と話をそらされる。
あまりにも飄々としたラビの態度に何故だが腹が立つ。
「・・・僕が好きな人の悪口言われてたら、我慢できないんですけど!・・・ラビってあんまり神田の事好きじゃないんですか?」
そう言った一瞬、ラビの瞳の奥が揺れた気がした。
僕から、目線を外し遠くを見て、ラビは呟くように言った。
「正直さ。他の人がユウをどう思ってるのかなんて全然気にならないんさ。・・・・・ユウを好きなのはオレだけでいいさ。」
最後の一言は掠れて聞き取りにくくて。
さっきまでの飄々とした態度のラビからは信じられないような言葉だった。
「じゃ、アレン〜。オレ、なんか眠くなってきたから、部屋行くさ〜。」
バイバイと手を振るラビはいつもの笑顔のラビだった。
そして、フラフラと手に新聞を抱えて、自分の部屋のほうに向かっていった。
廊下をカツカツをブーツの足音を響かせながら、反対側から神田が歩いてくる。
ラビと神田がすれ違う一瞬―――――、ほんの一瞬・・・・・・・二人の視線が絡んだ。
その視線は見てるほうが、赤面するような、そんな――――――。
夜だけ咲く月見草。
咲きたいから咲くの。
例え貴方が見てくれなくてもかまわない。
Airyの月見リカ様からの相互お礼リクでラビュのシリアス甘を・・・・・目指しました。
冷めてるようで実は凄く熱い、さっぱりとしてるようで濃い関係のラビュでラビ→→←←神田感を・・・との事で私もそういうの好きだー!!
と張り切ってみたものの、二人が会話しないという残念すぎる結果に。年下ーズが頑張ってくれました。
お待たせしすぎてスミマセン。