「ユウー、豆もらって来たさ〜!!」
自室のドアがバンッと大きな音を立て、開けられる。
全開にされるため、反対の壁際にドアがぶち当たり、反動で少し閉じかかるが。
蝶番や、壁のヒビなど気にする様子も全くなくオレンジのウサギは入室する。
・・・・・てか、それ以前にノックをしろ。
言いたいことが、山積みだが少しまどろんでいたところだったので、口が回らず、変わりに全ての思いを込めて、ギロッと睨む。
ラビは、俺の睨みも全く意に介せず、満面の笑みで、グッと握った拳を俺の目の前に突き出す。
条件反射で、下で受け口を作るように、ラビの拳の下で手を広げると、バラバラと豆が手のひらに落とされる。
ああ、そういや今日は節分だったな、と思い返すと同時にやっと覚醒してきた頭が働き怒鳴り上げた。
「テメェッ!!ノックしろって何回言ったら、分かるんだ!!
しかも、毎回毎回、乱暴にドア開けやがって!!壊れるだろうが!!
あと、毎年毎年、豆をギュって握ってくんじゃねぇよ!!
豆があったかくなってんだろうが!!」
刻むぞ!とお決まりの文句をつけて、やっと口を閉じる。
手のひらの豆はラビの手の熱であったまっており、外皮などは、ふやけてきている。
あまり、気持ちのいいものではない。
「いいじゃんさー!ほら、日本には、煮豆ってやつもあるでしょ??
オレのあたたかさと一緒に、食・べ・てv」
「おー、六幻。赤鬼がここにいるから、退治すっか。豆なんか使わずによぉ。」
「っうっ嘘です!!嘘です。ごめんさー。機嫌なおして、一緒に食べようさー。」
血の気の引いた顔でラビは頭を振り、反対側の手で握ってた豆を取り出す。
ラビの手のひらには、20個。俺の手のひらにも、20個
ラビが調べてくれた節分の文化だが、日本では鬼退治のときに豆で追い払ったのが由来になってるらしい。
豆を年の数、数え年だから、満年齢に+2歳分食べると「来年も健康で幸せに暮らせる」らしい。
こんなロンドンの教団で、節分なんて行事をするのは、お祭り好きの室長が先導をとってくれているのもあるが、
ずいぶんと、小さい頃ラビが俺が日本出身と聞いて、日本文化を一生懸命調べてくれたのだ。
手のひらの豆が20個になったのを見て、ふとこの豆の数が半分くらいだった頃のことを思い出した。
「ユウー!節分って行事があるんさ!やろ〜。」
とラビに言われたのは、数日前。
節分と言われても、何をするのか、よく分からなかったが、年の数だけ豆を食べて、豆まきをして、鬼を追い払うらしい。
鬼を追い払うと言っても、ロンドンに鬼がいるのか、よく分からなかったけど、ラビが一生懸命科学班の皆やジェリーに頼んでいるから、
ちょっと楽しみだった。
節分の由来も絵本で、リーバーに読んでもらいリナリーとラビも楽しみにしているようだった。
2/3の当日は、晩御飯に苦手なイワシが出てきだが、イワシを食べないと鬼が来ると言われて、がんばって食べた。
恵方巻きという太巻きの寿司をジェリーが作ってくれ、今年の方角を向いて、食べきるまでしゃべっちゃいけないと言われた。
リーバーにしゃべるとどうなるんだ?とこっそり聞いたら、「しゃべっちゃったら、不幸になる。」と言われかなりドキドキしながら、
今年の方角・西南西を向いて、椅子に座る。
いつもにぎやかな食堂が今日は、シーンと静まり返って、皆同じ方角を向いている。
「はーい!!みんな恵方巻きはそれぞれあるわね!丸かぶりして食べるのよ!食べるまで、しゃべっちゃダメだからね!!」
ジェリーのよく響く声をスタートで、皿の上にあった巻き寿司を手に取った。
一瞬、ラビと目が合ったが、お互い笑っちゃいそうになったので、急いで、目をそらし、真面目な顔で寿司を食べ始めた。
みんな食い終わるのが、早くて、かなり焦ったが、なんとか、食い終わって、正面を向く。
ラビはとっくに食い終わってて、俺にしゃべりかけようとしたが、隣のリナリーがまだ食い終わってなかったので、
シィーっと人差し指を唇にあてて、黙らせた。
皆が、食い終わった頃、皆に豆が配られた。
「ハ〜イ!!鬼の登場ですよ!!」
そういって、食堂に現れたのは、赤い格好をしたコムイだった。
ただ、その赤い格好が・・・・・・・。
去年のクリスマスに使った、サンタの格好に角をつけただけで、全然怖くなかった。
隣の席のリーバーはため息をついている。
「なぁ、リーバー。絵本の鬼あんなんじゃなかったぞ。」
「虎のパンツ履いてないさ!!」
俺らが口々に不満を言うと、リーバーがげんなりした顔で言う。
「アレで、勘弁してやってくれ。あの人本気で鬼のロボット作ろうとして、科学班全員で止めたんだ。」
「鬼はー、外ー!!福はー、内ー!!」
「オニハーソトー!!フクワーウチー!!」
独特のリズムをつけながら、豆をまく。
ラビやリナリーや俺は一番前にしてもらって、コムイ鬼に届くようにしてもらった。
最初は、なんだか、遠慮してたけど、だんだんと楽しくなって、大声で豆をまく。
「イタタタタ・・・・、ちょっとリーバー君たち豆の勢い強いんだけど・・!!」
「サボる室長は外ー!!」
「ちょっとー!趣旨変わってるー!」
科学班たちはちょっと目の色が変わってて、それを見て、俺らは腹を抱えて、笑った。
豆まきが終わると、ジェリーが豆をくれた。
今度は、食べる様の豆らしい。
「ユウー!何個もらえた?」
「いち、にー、さん、・・・12個。」
「オレも12個さ。」
「あたしは、10個。」
「数え年だから、ちょっと年齢よりも数多いさねー。」
そう言って、ポリポリと豆を食べた。
豆は、すぐになくなってしまいなんだか物足りない感じだ。
食堂の隅で、伸びているコムイを叩き起こしている、リーバーのもとに走る。
「リーバーは、豆何個なんだ?」
「あー、オレは、数え年だから、20だな。」
リナリーの倍の数だったことにビックリする。
「なんで、そんなもらえるんだ?」
「えっ?まぁ、お前らより年上だからな・・・・・。」
歳とるのって、イヤだぞー。オレもお前らみたいに若くいたいよ。とぼやいている。
でも、豆いっぱいもらえるからいいじゃねぇか。と言うとリーバーに笑われた。
笑われたのも悔しくって、豆がいっぱいあるのが、ズルくって、リーバーに食って掛かる。
「俺は、いつリーバーの歳に追いつくんだ?」
「えーと、お前とは8歳違いだから、8年後だな・・・。」
「8年・・・・・。お前と同い年になるのに、そんなにかかるのか・・・・。」
8年と言ったら、途方もなく先の話だ。そんな事でほんとに追いつけるのだろうか?
口を尖らしてると、リーバーが驚いた顔をする。
「いや、神田。8年後には、俺も8歳年取ってるから、同い年には慣れないぞ。」
「嘘だ!!だって、こないだラビの誕生日来た時、ラビが俺の歳に追いついたー!って言ってたぞ。」
いつまで、経っても追いつけないなんて、そんなの無しだ。
それじゃぁ、いつまでたっても皆より年下じゃないかよ。
ラビは、俺の歳に追いつけて、俺はリーバーの歳に追いつけないなんて、不公平すぎる。
むぅぅぅ、と眉間に皺を寄せていると、上からポンポンと頭を撫でられる。
ホラ、こんな風に子供扱いされるから、嫌なんだ。
「ラビは、神田と同い年だからな。その代わり、リナリーも、お前らには追いつけないぞ。」
「ほんとか!?」
目を輝かせて、リーバーを見上げるとリーバーはしゃがみこんで、笑った。
それで、俺を抱き上げると、グィーンと高い高いする。
「歳は、追いつけないけど、背はすぐ追い越すぞ。」
「ほんとか?リーバーより背が高くなれるか?」
「おおう。こーんくらい高くなるぞー!!」
リーバーが背伸びをして、俺を目一杯持ち上げる。
いつもより視線が高くなって、早くこのくらい高くなりてぇと思った。
高い視界からは、食堂がグルッと一望できて、ラビとリナリーがこちらに走ってくるのが、見える。
あいつらにも、高い高いを代わってやんなきゃいけねぇ、と思いつつ、いつか見ることの出来る景色を目に焼き付けた。
「・・・・・嘘つき。」
アレから、八年経ったが、まだリーバーには背丈が追いついてない。
それどころか、「おにはそとさー!!」と言って、窓から豆を投げているラビにも2センチ抜かされた。
ていうか、もともと欧米人の方が、体格いいから、背丈勝つってかなり難しいんじゃねぇのか?
ちゃんとカルシウム取るために、毎年節分にはイワシ食べてんのに、チキショウ。
「ユウもちゃんと、豆まきするさ!」
豆をグィッと目の前に突き出される。
・・・・・コイツ、人の部屋に「福は内ー!」と豆まきやがって、誰が掃除すると思ってんだ。
「・・・・・ああ、そうだな。」
出された、豆を鷲掴みにして、目の前のラビに、思いっきり「福は内!」と投げつける。
「痛い!痛い!!ユウ、俺に当たってるさ!!」
「ああ、悪い。でも、福豆に当たるなんざ、今年よっぽど良いことあるんじゃないか?」
ニヤッと笑って言うと、ラビも負けじと俺に豆を投げつける。
「ユウも幸せになりますようにー!!」
結局、豆がなくなるまで、二人で投げつけあった。
ずっと、黒白の世界にいると思ってた。
そこに、色をくれたのは、お前たちだから・・・・・・・。
言葉では、素直に言えないけど、幸せになって――――――
節分はテンションが上がるイベントなので、突発的に書き上げた話でした。
でも、これが3月末・・・?くらいまで居座ってしまったという残念な結果に。
仔神田とリーバーの会話は好きなんでいっつもはさんでしまいます。エドガーとユウも好きだなー。