3月17日








校舎と校舎をつなぐ渡り廊下は、吹きさらしの屋根ナシ。
ビュービューと遠慮なく吹いてくる北風にちょっとよろけそうになる。
今時こんな、吹きさらしの渡り廊下なんて、耐震設計上問題があるんじゃないかと思いつつ、移動教室の際は三階から三階に直接つながる廊下はありがたくいつも愛用している。

移動教室の時なんて、皆休憩時間のギリギリまで暖かい教室でダベッてるモンだから、チャイムがなったと同時に一斉にみんな教室を飛び出す。
当然、渡り廊下なんて、ドタドタと走りきって渡るものだから、三年間通った中で、頻繁に使ってた割には愛着がないような気がする。

下級生よりも早く、学期末試験兼卒業試験が終わった為、後は各大学の特別補習がある奴や、大学から下宿する奴は寮の斡旋してもらってる奴が登校している。
つまり、高校3年生は、一応卒業はしてないけど毎日、授業もないし、高校にも強制的には来なくて良いと、学生の義務が肩の荷から降りた感じだ。

今まで、必死の受験モードが漂っていた為、正直この格差には驚きだ。
腑抜けになって、今まで優等生だった奴が大学では遊び呆ける、というのも分かる気がする。


教室に行っても、大学の為の英語の特別授業をやってたりして、クラスの仲間とだべる雰囲気でもなかった。
なんとなく、ブラブラまわって、図書室のブックマンに軽く顔出そうと思ったら、外出中で・・・・。

3階の渡り廊下を歩いてたら、なんとなく歩みが止まった。

「居場所がないってこういう事いうんさー。」

渡り廊下の錆びた手すりにもたれ掛かって、他の教室を見ると下級生達が熱心に授業を受けている。
散々、下級生には、「合格した三年生が羨ましい」と言われたが、実際になってみると、こんなものか・・・・、という方が大きい。

勿論、テンション上がって、旅行に行く奴、バイトに行く奴、免許取りに行くやつと満喫している奴もいるが。

「なーんかねー。」

渡り廊下の真ん中に座り込んで、校舎と校舎の間から見えるグラウンドを見れば、暇なのか、サッカー部のOB達が三年生達がフットサルをしている。
高校に行かないといけない時は、全員サボる事を必死で考えていたのに、いざ、学校に来なくていいと言われると意外なサボり魔が登校して来ていたり。

人間は、天邪鬼だ・・・・。

ポケットの中から振動が感じ、携帯を取り出す。


『From ユウv
(not title)
 今、終わった。
  -END- 』

一行の文章にも笑顔にさせられる。送信相手は目下、目に入れても痛くないくらい愛しい恋人のユウからだ。
今日、学校に登校すると決めたのも、ユウが登校するから一緒についてきたようなもの。
ユウが所属していた剣道部の防具や武具や発注するから、見て欲しいと頼まれたかららしい。

ユウが在校中、剣道で全国大会に行ったので、学校からの部費の補助がだいぶ上がったらしい。
それで、防具や武具を一新することになったのだが、そんなのユウが卒業してから使うものだから、ユウには関係ないのにキチンと付き合っているところがユウらしい。

まー、そこが好きなんだけど・・・。

顔が完全にニヤけながら、ブラインドタッチで携帯の文章を作る。


『To ユウv
 title お疲れ様〜

 ユウ!!おつかれ!
 今、三階の渡り廊下で黄昏中。
 すっごい寒いんさ!!
 あったかい飲み物飲みたいなー!
 それかユウに暖めてほしいさ///////
     -END-      』

送信ボタンを押して、パチンと携帯を閉じるとユウがドコから、来るのか、キョロキョロ探す。
体育館から来るから渡り廊下の下を通るだろうかと思って、身を乗り出す。

またポケットの携帯が静かに揺れ、メールの着信を知らせる。

『From ユウv
 title Re:お疲れ様〜
 死ね。
  -END- 』

えらく返信が早いと思ったら、お決まりの二文字ですか・・・・。相変わらずタイトルは返信のままになってるし・・・・・。
ユウのメールの3回に一回は「死ね」とか「ぶった斬るぞ。」「刈るぞ。」のどれかだし。

きっとそれも、ユウなりの愛情表現なんさ!!



キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

とチャイムがなり、まず最初に授業を終えた先生達が渡り廊下を通っていく。
「お?ラビ。今日は登校か?珍しいな。」と声をかけられて・・・・。

その後、ガヤガヤと下級生たちが移動教室の為、教科書や筆記用具を抱えて、走ってくる。
「ラビ先輩。」と声をかけられるのを、軽く手を振って答えて。

あの集団の中につい先日まで、いたと言うのに、この数日で全くの第三者となるのか。
なんとなく、心にすきま風が通るようでちょびっとだけ寂しくなる。

ただ、渡り廊下の下に、黒い長い髪をキレイに結い上げた麗人を見つけて、笑顔になるが。
ブンブンと手を振ってみれば、遠いのにハッキリわかるぐらいあらか様に眉間に皺を寄せられる。

手も振り替えされずにユウが、校舎の中へと消えて行ったので、早く三階まで階段を上ってきてくれることを祈る。


休憩時間最後のチャイムが鳴り、移動教室へいそぐ最終組みがダッシュで渡り廊下を走っていく。
それで、若干揺れているところがこの廊下の怖いところだが・・・。




「おい、てめぇ。人にパシらせるとは、良い度胸だな。」

3階まで、階段を上ってきたのに全く息が乱れてないところはさすがというところか。
振り向くと、機嫌MAXで悪いですよ。と顔に書かれたユウが憮然とジュースの缶を渡す。

まだその缶は熱くって、ブレザーの裾を上手く使って受け取る。

「・・・・ミロってなんさ!!」

「うるせぇ!あったかい物って言っただろうが!」

「こんなお子ちゃまの飲み物なんてイヤさー。」

と言いながら、缶をマジマジと見る。幼い頃飲んでたのは、若干パッケージが違う。
へー、カルシウム多いんだ・・・・とか思いながら、プルトップを開け、一口飲む。

懐かしいような味が喉を通る。

「あー、意外と上手いかも・・・・さ。」

「てめぇみたいなお子さま味覚にはそれがいいんだよ。」

さも、バカにしたように、フンと鼻で笑い頬にかかった髪をうるさそうに払う。
ユウが持っているのは、スタバのホットカップ。

「あ!!ユウだけスタバ行ってる!!ずるいさー!」

「はぁ?顧問が今日のお礼にって買ってきてくれたんだよ。」

「えー!オレの分も頼んでくれれば良かったのにぃー。」

ブーブー文句を言って、ユウのスタバのカップを無理やり奪う。
了承も取らずに、一口飲めば、「苦い・・・・・。」
甘いもの嫌いなユウは当然砂糖を入れたコーヒーなんか飲まないから、当然苦くて思いっきり顔をしかめた。

ミロ飲んだ後、だから余計だからかも・・・・。

「だから、お前はお子さま味覚なんだよ。」

ちょっと笑いながら、ユウはスタバのカップをオレの手から、奪い返した。




「ユウー、あと二日で、卒業だねー。」

「ああ。」

「実感てある?」

「全然、ない。」

「だよねー。普通に四月からも間違えて制服着て、ここに登校しそうさ。」

「お前、変なトコでバカだから、ありえるかもな。」

「ひどい!ユウー。そこはツッコんでよ!!」

渡り廊下に二人して腰を下ろして、オレは無理やり思い出作りをするために、校舎の姿を目に焼き付けた。
校舎から、4番目に見える窓は理科室だとか、二階の一番手前の窓は生活指導部だとか。

ユウは、そんなことさらさらする気がないのか、ぼんやり空を見上げている。
そんなユウの横顔をみてるとふと、気になってた事を聞く。

「ねぇ、ユウ。高校生活でもっとコレやっときたかったなーって事ある?」

「・・・・・俺、初めて言うけど、高校に入学する前に日記つけてたんだ。」

「えっ!?ユウが日記??」

ビックリして、飲みかけのミロを落としそうになる。
ミロのおかげで、体はあったまり、日も昇ってきたので、だいぶ暖かくなってきた。

「おー、中3の時の担任が卒業式の時、今の気持ちや感情は忘れてしまうものだけど、間違いなく今の気持ちは今しか感じれないから、
日記とかに残しておくと、すごく貴重だから。ってすげーあいまいな事言われて。人の気持ちは変わって行くから、一年後の自分でも別人のようになってるんだと。」

「へー、ユウが先生の言う事素直に聞くなんて珍しい。」

「おう。別に自分の気持ちなんて変わった事なんてねーよ。って思ったけど、担任がどういうつもりでそう言ったのか気になって日記書いてみた。」

「すごいさ!!まだ書いてるの?」

「いや、1日だけ書いた。」

「・・・・・ユウちゃん、それって日記って言わないさ。」

中学の担任の言葉を素直に受け入れたユウにビックリしたが、やっぱりユウらしい。
ユウが毎日日記をつけてても、それはそれで怖いものがあるが・・・・・。
きっと、毎日ソバの事ばっかり書きそう。

「なんて書いてたんさ・・・・?ラビ大好きvとか?」

「・・・・・・。」

うわっ、ツッコミも無しで軽蔑した視線を送られてる。
確かに、高校から知り合ったから、そんな事は書いてないって分かってるんだけど、ボケたんだから、つっこんでよ!


「高校の選択まよった挙句に、こっちの高校に決めたんだが、後悔してないか?もし後悔してたら悪いな。
そんときは、将来タイムマシーンが出来たら、今日に戻ってやり直せ。って書いてあった。」

「タイムマシーンってユウ!まじめに日記にそう書いたんさ?」

思わず噴出してしまった俺にユウはジトっと睨む。
「うるせっ。」と言って立ち上がって、歩き出したユウを急いで追いかける。

確かに、多感な時期だし、進路に迷う事も多い。
特に学生の選択なんて、どの学校に行くのかが、人生の全てを決めるみたいでかなり真剣に考える。
もちろん、後悔することだって、あるけど・・・・・。

ユウがそんな後悔してないだろうか?と思っていたなんて初耳だった。

ユウはなんでも、有言実行、正直迷った事なんてないんだと思っていた。







ユウの後を追いかけると定番のサボり場所である校舎の屋上についた。
慣れたように、ヒョイヒョイと給水タンクに上がるユウの後を追う。

ほんとに、この人は高いところが好きなんだから・・・・。

「でも、意外さー!ユウでも後悔したり、迷ったりする事あるんさね。」

「日記読んだ時、ビックリした。俺、高校来てから一回も後悔したことなかったから。迷ってたことすら忘れてた。」

「ユウらしい。」

「多分、毎日忙しかったし、部活とかいろいろ。後悔とか考える暇なかったんだろ。」

給水タンクの上にユウはいっつも立って、そこから見える景色を見ている。
きっとその瞳には迷いなんてこれっぽっちもないんだろうな・・・・と思うと無性に羨ましくなった。

オレがきっとユウと同じ目線にたっても、同じ景色は見えないんじゃないかと思うくらいに。

「いいなー。ユウ。オレは、後悔ばっかりさぁ。高1の時から、ユウみたいになにか、部活やっときゃよかったな、とか。
高校の運動部なんて、みんな中学から続けてる奴ばっかりだから、絶対無理だろって思ってさ・・・。
ユウは、高校から剣道始めたのに、全国大会まで行けてるしさ。オレもなんかやっとけばなー!!」

・・・・オレ、高校でなんもやってこなかったしな・・・とちょっとぼやく。

段々と、学年が上がるにつれ、新しい事にチャレンジする機会は減ってくるように思う。
そんな時、一つの事を長く続けてる奴はほんと尊敬する。

オレは飽きっぽいから、なんにも続かないし、今更この歳でなにか始めても・・・・て気持ちが強くなってくる。


「馬鹿じゃねぇの。」

相変わらずその姿は悠然としていて、オレが3年間憧れてるままの姿だ。
長い髪が風になびかれながらも、なお美しく悠然と言葉を放つ。

「いっつも、人は今を見ねぇんだよ。

小学生の頃からやっときゃよかった。中学生の頃からやっときゃよかった。高校の時からやっときゃよかった。

社会人になったら、学生の頃やっときゃ良かった。

考えてみろよ?今、俺ら18だぞ?

20歳になって、もう20歳だし、新しいこと始めてもなー、とか思ったって、25歳になって思い返せば、あー20歳からやっときゃよかったなーって絶対思うぞ?

だから、歳なんて、関係ねぇんだよ。やりたい時に、やりたい事やれよ。」

いつもと違って、饒舌なユウは少し怒っているようで、でも一生懸命伝えたいという気持ちが伝わってきて、きっと演説がどんな上手い人よりもオレの心に響いた。
だって、ユウが真剣にオレに向けてくれた言葉だから・・・・。

「う・・・うん。オレ、やりたい事見つけて、がんばるさ!!」

「そうだ!!スガシカオなんて、28歳から音楽活動はじめたんだぞ!」

「ユウ。意外に雑学詳しいね・・・。」

ユウが突然給水タンクから飛び降りて、俺の顔を見上げる。
その顔はちょっと怒ってるようで、眉間に皺がよっている。

あー、ウジウジしてて、呆れられたかなと思ってると、ちょっとユウが俯きながらしゃべりだした。

「・・・お前、高校生活でなんにもしてないって言ってたけど、絶対そんな事ねぇし!!本いっぱい読んでただろ!」

「あー、でもアレは、趣味だし・・・?あんま役に立たないかなー?って。」

「どんな事だって、一生懸命やったことに無駄なことなんてねぇよ。そりゃ、ちょっとまわり道する事もあるかもしれねぇけど。
その時、一生懸命やって、あと自分が楽しいて思えたら、絶対後悔なんかしねぇよ。だいたい、お前、頭良いから、そのくらいわかるだろ!」

ユウがそのまま怒ったように足早に屋上の手すりの方に歩いていくので、慌てて追いかけた。

屋上の手すりにつかまってるユウの横顔を見れば、何故かちょっと赤くなっていて。

「俺は・・・・俺は、この高校選んで後悔してないのの、半分くらいは、お前の・・・・くだらない話とか聞けて楽しかったから・・・・・。」

最後の方は、段々と言葉が尻つぼみになっていったけど、しっかりと聞こえた。
こっちを向いてくれないユウの横顔は耳まで真っ赤になっていて。

ただ、ただ、ユウの今の言葉が純粋に嬉しかった。

ギュウと手すりにつかまってるユウを後ろから抱きしめる。

「ユウ、ユウ!!オレもね。オレもこの高校入って、ユウと会えたのが一番嬉しいさ!!
タイムマシーンができても、オレ絶対この高校入るから!!ユウもこの高校に入ってさ!!」

約束さー!とユウの耳元で言えば、『俺は、半分くらいって言った!!いや4分の1くらいだ!!』と真っ赤な顔で反論してくる。

その腕の中の幸せを感じながら思った。

人間は未来の事を考えて不安がる。過去の事を考えて後悔する。

でも、今ある幸せ、今を精一杯楽しむこと頑張る事に目を向けてる人は少ないんじゃないか。

少なくとも、今、自分には今現在の幸せをくてれ、一緒に楽しめる愛しい人いる事が最高に嬉しい。



そんな事を思った 3月17日。



―――――ねぇ、4年後のオレはなんて思ってるんさ?







初美ザキさまへの相互記念リク「冬の学生ラビュ」とのことでしたが、卒業って春・・・・・だ!!と書いてから気づきました。
すみません!!コタツでいちゃいちゃするラビュと迷ったんですが、学パロはこっちの方が強いだろと思い・・・・。
遅くなってすみませんでした。
相互ありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いします。

空河直也