「おい、・・・・おい、着いたぞ。」
ガクンと首を垂れて寝ていたラビを揺り起こし、腕を引っ張るようにして電車から下ろす。
目的地の駅名を聞いといて良かった。
ラビに任せてたら、終点まで行くとこだった。
改札を抜けるまで、かなりラビは起きぬけでボーっとしてる様子だったが、地上に出ると、思いっきり伸びをした。
「うーっしっ。お寺閉まる前に、ユウ急ごうさ!!」
まったく、さっきまで寝ぼけてフラフラしてたのは、どいつだよ、と心の中で突っ込みたくなる。
「お前ってよく寝るよな。」
「・・・・そうさ?」
「新幹線の中でも寝てたし、昨日も即効寝やがるし・・・・。」
昨日、こっちは、野郎と一緒の布団で寝るなんざ、初めてに近いし、できれば今後は無縁でいたい経験だ。
その為、布団からはみ出ない範囲でできるだけ、離れようと苦労していたのに後ろからは暢気な寝息が聞こえていた。
腹がたって、布団から蹴りだそうとかなり迷ったものだ。
「うーん。皆には内緒だけど、オレ不眠症なんさ。だけど、ユウからアルファ派がでてるんか、ユウが近くにいるとグッスリ眠れるー。」
今もマイナスイオンを感じるさ〜と言って、俺の匂いをクンクン嗅ごうとする。
近づけるラビの顔をバシッと押しのける。
道の真ん中で何やってんだ。
「ただ単に、修学旅行で環境変わって、運動量多いだけじゃねぇのかよ。」
「いやいや。絶対、、波長が合うんさよ。」
勝手なラビの自論を自信満々に言っているラビに呆れつつも、確かに一人の行動が好きな自分がこんな長時間ラビと二人きりで過ごせてるのは不思議な気がする。
しかも、ほとんど昨日しゃべったのが、初めてだという相手に。
「よーし!!じゃぁ、大暴露大会ー!!」
明日は別のホテルに移動するので、明日の朝すぐに出発できるように荷物をまとめていると後ろから、大きな声が響き渡った。
周りがシーッと諌めているのは、出欠確認の担任が去り、消灯時間となった為。
また、下世話な会話が飛び交うのかとウンザリして、今日もマリたちの部屋に行くかと決心する。
「あー!!ユウ!今日は逃げるの禁止ー!!」
荷造りを手早く済ませ、部屋を出て行こうとするとハイテンションな声につかまる。
顔を見なくても、声の主は分かる。ラビだ。
思いっきり眉間に皺を寄せて、見返してやれば、怯むどころか、ニコニコと・・・・いや、ニヤニヤとした顔のラビと班員たち。
ラビに手を引かれて、無理やりラビの隣に座らされる。
「うわー!オレ負けたさー!!」
大貧民ー!!と周りから、声が飛ぶ。
班員が持ってきたトランプで今俺たちは、大富豪というカードゲームをしてる。
ラビは、最初好調だったのに、だんだん雲行きが怪しくなって、ビリ。
俺は、微妙にローカルルールが分からなくて、ビリから二番目。
「ラビー。なんか暴露しろよー。」
「えー、オレ昨日した話で全部さー!」
「お前、全然エグイ話してないじゃねぇかよ。」
「オレ達みたいな場数踏んどけよ。」
周りの男子が一斉にオレの隣に座っているラビを攻め立てる。
どうやら、ゲームでビリになった奴が何か暴露しないといけないらしい。
・・・・絶対、負けられねぇ。
「あー、じゃぁ、暴露することないんだったら、罰ゲームな!!」
「え?何すんのさ?デコピン?」
「んな、ぬるい事で、許すかよ!」
「パンツ一枚で女子部屋行くとか!!」
「おー!いーね!!」
ヤダ!!それ変態じゃん!!とラビが抗議する中、男子達はドンドン悪乗りをしている。
アレが、自分に振りかかったら、ぜってぇ嫌だ。
だが、カードゲームに自信がねぇし・・・・。腕っ節なら、こいつ等に勝てそうなのに。
「あっ!オレ、いい罰ゲーム思いついた!!」
ラビが、パッと明るい顔で顔を上げる。
なんだよ?ゆるい奴だったら、却下だぞ。と容赦ない周りの奴ら。
コレを昨日もやってたのか、と思うとほんとにマリの部屋に逃げて正解だったと思う。
「ブーピーのユウとチュウするってのは??」
「はぁっ!?」
思わず自分の名前が出てきて、素っ頓狂な声を上げる。
コイツ、今何て言った!?
俺が、唖然として口をパクパクしてるとラビが満面の笑みでこっちを見る。
・・・・イヤイヤ、肩をつかむんじゃねぇよ。
「おー!いーね!!」
「いいじゃん!!それにしよ!」
「おー、俺写メ撮りたい!!」
「オレ、デジカメ出すし待ってー!!」
「・・・っふざけんなっ!!」
オレが恫喝しても、男子は手に携帯やデジカメを手に持ち始める。
却下しろよ!!と叫んでも、全然取り合ってもらえない。
「ラビ!!お前、ふざけんなよ!?なんで、俺まで巻き添えにしてやがるんだ!!」
「いーじゃんさー。ユウだって、ブービーなんだから、旅は道連れっていうでしょ?」
だから、一緒に罰ゲームするさぁ!!と訳のわからない事を言われる。
両肩をガシッとつかまれ、手をどけようと足掻いても、ラビは意外に鍛えてるのかビクともしない。
顔を近づけられ、完全に焦ってる俺とは、対照的にラビは余裕の顔。
「おい、ラビ。5秒はキスしとけよー。」
「りょーかいさ!!」
何が了解だ!ふざけやがって!!とラビを思いっきり睨み付ける。
ラビの手首をつかんだが、全然外れないから、逃げようと後ろにのけ反ると、バタンッと視界が反転する。
俺が布団の山に倒れこんだのを良いことにラビに馬乗りになられて、余計に逃げられない。
ラビの顔が息が触れるくらい近くなって、思わず『ギャーッ』と心の中で叫んで、目を瞑ってしまった。
やがて、唇に生暖かい何ともいえない感触がした。
周りのシャッター音が遠くで聞こえているようで、ただ、ラビの熱い体温を感じた。
最後に軽く下唇を吸い上げられ、チュッと音をさして、ラビの顔が離れていく。
軽くなった体と急に広くなった視界に一瞬呆然としたが、ハッと我に返った。
すぐに起き上がると、写メ見して見してー、と言っているラビの鳩尾にドゴォッと重い一発を入れる。
「痛ったいさー!!」
「ふざけんな!テメー!何しやがる!?」
「へへ、ユウの唇やわらかかっ・・・・
グシャッ。
さっきの鳩尾のパンチで体を二つに折っているラビを更に踏みつける。
「ははっ。神田っていいキャラしてるじゃん。」
「てめぇらも、さっきの写真消しやがれ。」
笑ってる男子どもをギロッと睨み付ける。
あとあと、その部屋にいた班員達は『あの時、鬼が見えた。』と語っていたらしい。
パシャッ、パシャッ
ピロリ〜ン
昨日聞いたようなカメラのシャッター音で目が覚める。
ボンヤリと開いた視界には、携帯やカメラを手にした班員達が目に入ってくる。
・・・つか、なんかすっごい、暖かい。
「神田。はよー。」
「・・・・おお。」
またボンヤリしている頭で返答して、体を起こそうとするが、動かない。
というか、なんか体が重い・・・・。
「っうぉ!!」
自分の状況を把握して、思わず声が上がる。
自分じゃない手が体に巻きついていて、しっかり後ろから抱きしめられている。
無理やり、後ろを振り返ってみると案の定と言うか、ラビの間抜けな寝顔があった。
昨日は、ちゃんと一人ずつ布団に入って、寝れたというのに・・・・。
そういや、ラビが隣の布団だったんだっけ。
「お前ら、ラブラブじゃん。」
写メを撮った班員がかなりにやけた面で言ってくる。
班員達に見られてることに、カァーッと恥ずかしくなって、ラビを振りほどこうと必死でもがく。
モゾモゾとしてると、ラビが目が覚めたのか、「うーん。」という声が聞こえる。
「おい、ラビ!!何やってんだ!!」
「おっ??ユウ、おはよー。皆もおはよーさ。」
「おはよー、じゃねぇんだよ!早くどけ!!」
「うーん。まだ、もうちょっと眠いさー。」
そう言って、グリグリと顔をうなじへ埋められる。
ハッキリ言って、鳥肌が立つ。
そして、昨日に引き続いて、キレイにラビの鳩尾に肘鉄を決めた。
写真は、かならず消せとかなり脅しをかけたつもりだが・・・・・。
だが、写真を消さなかった奴もしっかりいるようで、修学旅行を終えた後、クラスの掲示板に罰ゲームのキスの写真と、
ラビに抱きつかれて寝ている写真はしっかりと貼り付けられていた。
携帯のメールでも、しっかりとクラスに回されているようで、女子たちもちゃっかりデータを持っているらしい。
その事で、頭を痛めてる俺をよそにラビは、修学旅行後もよく絡んできて、お互いの家を行き来するようにもなった。
ラビは相変わらず、不眠症を理由に俺に抱きついて寝ようばっかりしているが・・・・。
変わったことといえば、ラビが至近距離に近づいたら、鳥肌が立つ変わりに顔が赤くなること。
罰ゲームじゃなくても、キスするようになったこと。
それは、お互いクラスじゃ隠してるんだが、修学旅行から帰ってきた翌日から、俺のあだ名は決定した。
『ラビの嫁』
言う奴、言う奴に鉄拳制裁を食らわしているんだが、影で言われたり、女子に言われると手が出せない。
ラビでさえ、嫁呼ばわりするのだから、いい加減にしてほしい。
高校生活、一年と数ヶ月。
このあだ名で通るのかと思うと・・・・・、
勘弁してくれ!!
―――――Give me a break!
12000HITリク 紫秋さまほんとにありがとうございました!!
ほんとにめちゃくちゃ遅くなってごめんなさい!!
コレにこりずにもしよければ、また遊びにきてください !
心よりお待ちしております。
ラビの精神安定剤はユウなんだ!という主張をしてみました。