「あっ!!忘れ物したさ!!」
せっかく鍵をフロントに預けて、ロビーに来たというのにオレンジの犬――――イヤ、ラビが部屋に戻ると言い出す。
めんどくせぇ奴と思いながらロビーでぼんやり待っているとラビが息を切らせて戻ってくる。
ほんと、犬みてぇ・・・・・。
「お待たせー!さ!早く出発するさ!!」
待たせたのは、どいつだよ、と思いつつ他の班員は慣れっこなのか、文句一つ言わずに立ち上がる。
二日目の今日は自由行動の日だ。
班員たちは、女子達にいろいろ一緒に回ろうと誘われていたみたいだが、意外にも班員全員そろっての出発だ。
ゾロゾロと男子7人で固まって、京都駅まで移動する。
「じゃぁな!」
「おう!!」
と言って、若干顔の緩めた班員達がバラバラと散っていく。
なんの事か分からずに、キョトンとした俺は隣のラビに聞く。
「お、おい!どうなってんだよ!?」
「アハハー。この班カップル班て言われるくらいでさ。全員彼女持ち。」
「・・・・・・。」
「だから、皆彼女と一緒に自由行動行きたいでしょ??」
だから、みんな邪魔しないように口裏合わせるんさ。とラビがニヤッと笑う。
予定では、京都市内を自由行動で、この班は金閣寺とか映画村とかベタな観光名所を回るハズだ。
昨日、ラビに班行動をちゃんとするのか?と聞いたら、「皆で行くさー。」との回答が返ってきた。
だから、「一緒に自由行動行こう。」というマリとディシャの誘いを断ったのに・・・・。
なのに、結局他の奴らは女と出かけて、俺は一人かよ!!
「・・・・そーかよ。じゃぁな。」
こうなったら、一人で京都観光でもしよう。
むしろ班員と一緒より、一人で観光してた方が気が楽だ。
「あっ!待つさー!オレはフリーだから、今日はユウと自由行動すんの!」
一人で改札に向かおうとしたら、呼び止められる。
は?一番彼女いそうなコイツがフリーかよ。
「お前、女子にいっぱい誘われてたじゃねぇかよ。」
「えっ??あー、まぁ三日前に別れたばっかだから・・・・・若干、色々めんどくさいでしょ?」
ニコッと笑って言われる。
コイツがクラスで人気があるのは、どこにも波風立てぬよう立ち回りが上手いせいか・・・・・。
「で、ユウは、何したい??」
寺とか行ってもアレでしょー?と言って、京都市内の地図をクルクルと丸める。
修学旅行は事前学習で、色々と京都の事を調べるハズだが、一週間前に転校してきたばかりの俺は、何も準備していない。
だから、行きたいトコと言われても、何も思い浮かばないが・・・・。
あっ、でも・・・・・。
「旨い蕎麦が、食いたい。」
「何で、この電車に乗るんだ?」
明らかに、市街地から離れ行く電車に乗らされた。
普通、京都市内の観光地はバスで行くとこが多いとマリが言っていた。
なのに、「蕎麦が食いたい。」と言ったら、ラビはちょっと考える顔をして、「あの電車に乗ろう!!」といって、特急電車のようなものに乗り込んだ。
電車の行き先が、『奈良』となっているのが、不安だが・・・・。
「えー?だって、京都って別に蕎麦処じゃないさ?」
「・・・・・もしかして、奈良まで行くのかっ?」
「まっさかぁ!宇治に行くんさー!!」
茶そばー!!抹茶パフェー!!と楽しそうにラビはパンフレットを見ている。
宇治か・・・・・。宇治って、宇治市だけど、自由行動は京都市内に限ると無視してる気がするが・・・・・。
「それにさー、京都の観光名所って絶対クラスの奴ばっかさ?オレあんま会いたくないんさー。」
ポツリと呟いたラビがいつもの笑顔じゃなくって、一瞬顔を歪めて、それ以上何も聞けなくなった。
クラスに付き合ってた奴がいたのか、とかなんか触れてはいけない事の様な気がして、無理やり話題を変えた。
茶そばなんて、蕎麦とは認めねぇ。食べるまではそう思ってた。
いくら宇治で抹茶が有名とはいえ、店に入れば普通の蕎麦やうどんがあるだろうと思ってた。
ところが、ラビが選んだ店は抹茶が有名な茶店でメニューには、茶そばと抹茶を使ったスイーツしかなかった。
顔をかなりしかめながら、茶そばセットを頼むと暖かい茶そばと抹茶のふりかけを使ったご飯、抹茶ゼリーが出てきた。
麺に、ご飯・・・・・・・・。炭水化物に炭水化物・・・・・・。
「すごいさー!お汁が透明さー!」
向かいの席では、ラビが感嘆の声を上げている。
ラビが一口すすり、うまいうまいと言ってるのを見て、箸を口に運ぶ。
「・・・・・・旨い。」
「でしょ?やっぱ本場は違うさ!!超ーうまいさね!!」
ラビが、目の前でニコッと笑う。
コイツ、・・・・・旨いもの食べて、ニコニコ笑うって女子みてぇ。
抹茶ゼリーにも、目を輝かせてやがるし。
それにしても、今まで、食べた事のある茶そばは何だったのか?と思うほど旨い。
そういや、関西はだしが薄いと聞いたことがあるが本当だったのか・・・・。
ちゃんと透明でも、良いダシがでてる。
ちょっと感動して、茶そばを食べていると先にそばとご飯を食い終わったラビが、目をキラキラさせて、抹茶ゼリーに手をつけようとしている。
「これも、やるよ。」
自分の分の抹茶ゼリーをラビのお盆に載せる。
ラビが、えっ?という顔でこっちを見る。
「俺、甘いもの嫌いなんだよ。」
珍しいさ!!いいのー?と言いながら、嬉々としてラビは抹茶ゼリーを口に運んだ。
「あっ!!これ、超ー、抹茶の味さ!あんこつけなかったら、全然甘くないから、ユウでも食べれるさ!」
おいしいけど、もうちょっとオレは、甘いほうが好きさ!と言いながらラビが俺にも抹茶ゼリーを勧めてくる。
あんまりにも、しつこいので、食べてみるとほんとに、抹茶の味しかしなくて、確かに旨かった。
腹ごしらえをしてからは、平等院などで、十円玉ー!とはしゃぐラビと一緒に、観光名所をまわった。
正直、目の前の物が千年以上前からあるなんて、ピンとこなくて、変な感じだ。
ラビみたいに派手な奴はこういうもの興味がないだろうと勝手に思ってたら、意外にも、しっかりと見学している。
しかも、もともと歴史にくわしいのか、色々と俺に教えてくれた。
宇治川で、鵜飼のの鵜を見た後、河原に座って二人でボーっとする。
隣のラビは、寒い寒いと言いながら、抹茶ソフトクリームを食べている。
「ラビ、これからどうすんだ?」
「これからー、市内帰ってー!あっ!オレ、アレやりたい!!」
「?」
「縁結びの石ー!!」
「・・・・お前っ、ほんと女子みてぇだな。」
「いいじゃんさー!オレ、彼女できるようにお祈りすんの!!」
子供みたいに怒るラビについつい笑ってしまう。
ラビによると、清水寺の中に、縁結びで有名な神社があるらしい。
目を瞑って、片方の石から反対側の石までたどりつくと恋がかなうらしい。
ラビのさっきの様子から見ると、別れた彼女とヨリを戻したいのだろうか?
ちょっとコイツに振り回された仕返しに、嫌味をボソッと呟いてみた。
「あんまり、しつこい男は嫌われるぞ。」
「えっ?・・・・・・あ!オレ別に元カノには未練ないさ?今も普通に仲いいし。」
「ふーん。そうなのか?あんまクラスの奴と会いたくなさそうだったから、気まずいのかと思ってた。」
俺がそう言うと、ラビは俯いて地面の石ころを弄ってる。
なんか、地雷踏んだのか!?と何か話題を探そうとするとラビが口を開いた。
「なんかさ、オレって、クラスの奴らとか女の子と騒いでるその瞬間は楽しいんだけど、後で、すっごい疲れるんさ。」
「ふーん。」
「元カノと別れたのも、疲れるのが原因でさー。別に、皆のこと嫌いじゃないんだけどさ・・・・。」
「ふーん。気を使いすぎるんだろ。」
気ぃつかってるつもりないんだけどなぁ、と言ってラビは立ち上がる。
駅の方向に向かうようで、俺も後を追う。
なんせ、地図を一切見てないので、道順はラビにまかせっきりだ。
なんとなく、ラビの顔が陰ってる気がして、コイツでも悩むんだなと意外に思う。
「気を使いすぎる事は良い事だろ。でも、まぁほどほどに気を使えたらもっと良いんだろ。」
「・・・・良いことなんかなぁ?」
「良いに決まってんだろ?世の中の奴が全員俺みたいに気を使わなくなったら、どうすんだ。」
「ッ・・・ユウー!自覚あるんさ!?」
ラビが思わず吹き出して、俺を見る。
ちょっと謙遜で言ったのに、そんなに笑わなくてもいいだろ。
さすがに、自分でも気を使う性格とは言えねぇよ。
さっきまで、沈んでたのに奴はもうケラケラ笑ってやがる。
ムカついて、ベコッと殴って足早にラビを置いていく。
しばらくすると、「ユウー!そっちじゃないさぁ!!」という声が届いた。
お、終わらなかった(笑)
リクで長編書くのってどうなんでしょう・・・?でも、どうか笑って許してください。
次で、次で!!絶対終わらせます!!