あだ名なんて、ささいなキッカケ・・・・・・・。
それを狭い世界の中でサイアクなあだ名を決定付されたらこの世の終わりみたいなもの――――。
数年たって、思い返してみればなんでもない出来事なのかもしれないけど。
Give me a break!
高校2年の秋に行われる修学旅行なんざ受験前の息抜きみたいなもんで。
これが終われば本格的に学校も受験ムードになる。
しかし、高校生活最大の思い出とは言いすぎのような気もする。
幸か不幸か、修学旅行の1週間前に転校してきた俺は、修学旅行の参加に難色を示した。
だって、そうだろ?
馴染んでもないクラスメイトと泊りがけの旅行なんざ・・・。
しかも、行き先は、大阪、京都、奈良。
新幹線がある今、行こうと思えばすぐに行ける。
わざわざ修学旅行で行くほどのところだとは思えない。
俺は「行かない」と言ったのに、担任は「一生に一度の事だから。」、「高校生活最大の思い出になるから。」と力説して行かせた。
何より、両親まで巻き込んで、説得され、まるで俺が不登校のガキのようじゃねぇか。
結局、嬉しそうに荷物の準備をする母親に言われて、しぶしぶボストンバックに「修学旅行のしおり」を入れた。
「神田!!隣の席さー!よろしくね。」
ニコッと笑って、隣に乗り込んで来たのは、転校早々目に付いたオレンジの髪。
その髪って校則違反じゃねぇのか?という疑問がわきあがる。
オレンジの髪に何故か眼帯を片目にいつもしていて、怪しい外見なのに、ソコがいいのかクラスではやたら、人気がある。
正直言って、転校生の俺なんて、言っちゃ悪いがクラスでも地味な班の一員となると思ってた。
それが、蓋を開けてみれば、こんな派手な奴がいる班になるなんて。
さっき校庭集合の時、他の班員を見たが、同じく派手そうで皆同じ様なやつらばっかりだった。
もちろん、名前なんぞ覚えてない。
転校した初日から、いろいろ学校の事を教えてくれたマリとかディシャと、同じ班ならよかったのに。
人数の関係で、強制的にこのオレンジの奴のいる班にされたようだ。
昨日、ディシャたちが心配して「神田ー、新幹線の席代わってやるじゃん。」と言ってきた。
自由行動も、多分俺の班員は好き勝手に行動するだろうから、一緒に回ろうと誘ってきた。
すげぇ、面倒見のいい奴だ。
まぁ、俺はもともと団体行動が苦手だから、一人で放っておかれた方が楽は、楽なのだが・・・・。
「オレ、新幹線久しぶりに乗るさー!」
「オレの名前はラビさ!!もうクラス全員の名前覚えた?」
「この席、前の席が先生達だから、パッタンして相席にできないさー!!」
と、こんな風にかまわれるよりはずっと。
頼むから、静かにしてくれ・・・・。もしかして、京都までの3時間ずっとこのままなのか・・・・?
げんなりとして、窓の外を見れば、やっと新幹線は東京駅のホームを出発するところだった。
ゆるゆると動き出す車窓を見て、いつもとは違う視点から景色を見れるのが、かなり好きだったりする。
窓際を譲ってくれたことに感謝すべきか―――――といっても、さっさと乗り込んで、窓際をぶんどっただけだったりするが。
「ねー、神田ってさ。下の名前ユウでしょ?ユウって呼んでいい?」
「ああ゛!?」
適当に窓の外を見ながら相槌を打っていたが聞き捨てならないことを言われて、眉間に皺がよる。
どうぜバレる素なのだからかまうものか!と思って、思いっきり睨み付ける。
睨み付けられた当人はキョトンとする。よく見ると、眼帯をしてない方の瞳は、深い緑の色をしている。
「下の名前で呼ばれんの嫌いなんだよ!ゼッテー呼ぶな。」
「ええー、なんで?良いじゃんさ。せっかく仲良くなれたのに!」
ぶーと頬を膨らませるラビに、いつの間に仲良くなったんだ・・・と心の中でつっこむ。
車窓に視線を戻して、コイツが早くどっか席移動しますように願った。
新幹線が発車すると同時にバラバラと席移動や座席を回転させて向かい合わせに座る奴が増えてくる。
あっという間にラビの横の通路には女子たちが集まりキャイキャイとしゃべりかけている。
俺はとばっちりを食う前に完全に窓の方を向き、我関せずという顔をする。
どうやら、ラビはしきりに自由行動を一緒に周ろうと誘われているようだ。
しばらくすると、肩にトサッと重みを感じる。
頬にくすぐったい感触がして、何事だ、と見やれば、ラビが俺の肩にもたれて眠っている。
「あー!ラビくん。寝ちゃったぁ!」
女の子の黄色いキャーキャーした声で言われる。
一人の女子が「昨日、ラビくん遅くまで、本読んでたって言ってたもん。」と得意げに皆に教えている。
携帯で何枚か写真を撮られて、気が済んだのか、女子の軍団は去っていく。
「神田くん、起こさないであげてね。」
という言葉を残して。
「おい。」
「・・・・・。」
「・・・・・おいってんだろ。寝たふりすんな!」
「ちぇー、バレてるさ。」
「当たり前だろ。んなベタな寝方する奴があるか。」
肩のところで、ふふっと笑う息がかかる。
どうやら、ラビは女の子から解放される為にわざと寝たフリをしたらしい。
起きろよ、という意味を込めて、肩を上げたら「もうちょい、待ってさ。」と言われた。
それから、しばらく何組かの女子のグループをやり過ごしたら、ディシャとマリが現われた。
「神田ー!席、移るか?って、ラビ寝てるじゃん。」
ビックリしたようにディシャが言う。
「あ、コイツは・・・・。」と言いかけたら、いつの間にか本気で寝てしまったらしく、ラビからは規則正しい寝息が聞こえる。
相変わらず、ガッチリ肩に頭を置かれているから、身動きが全くとれない。
俺も寝るから、席はこのままでいい、とマリとディシャに伝えて、再び車窓に目を向けた。
「おーい!」
肩をユサユサと揺らされ、心地よい眠りから目が覚める。
いつの間にか眠っていたらしく、他の生徒は網棚から荷物を降ろしている。
「ユウ、もうすぐ京都につくってー。」
「そうか。」
目をゴシゴシこすっていると、フッと前に荷物が差し出される。
ラビがいつの間にか荷物を下ろしてくれていたらしく、ボンヤリと受け取る。
「ユウって、荷物これだけ?荷物少ないさー。」
「ああ。」
そうこうしているうちに、ホームに着き、生徒たちが我先にと狭い新幹線の通路がいっぱいになる。
そんなことしなくても、後から降りてもどうせ一緒だろと思い、後からのんびり降りようと思っていると、腕をグイグイと引っ張られる。
「ユウー!早く降りないとっ!」
結局、混雑した人の中に連れ込まれ、眉間に皺がよる。
目の前のオレンジを眺めてたら、ハッと気づいた。
「おいっ!お前、名前・・・・・。」
「ユウ、反応遅いさー!」
振り返ったオレンジは、ちょっと勝ち誇ったように笑った。
ヒタヒタとホテルの廊下を歩く。
消灯時間は、少し前に過ぎている為、教師に見つからないかヒヤヒヤだ。
ほんとは、消灯時間の前にとっとと寝ようと思っていたのだが、なんせ部屋がラビ達のような派手な奴の集まりだから、女の子を部屋に呼ぶだの、
下ネタ全開のトークが始まった為、マリ達の部屋に逃げ出したのだ。
そろそろ奴らも寝たかと思い、というか俺自身が眠い、部屋に戻ってきたのだ。
部屋のドアノブをカチリと回し、締め出されてない事にホッとする。
中に入ると、電気は消えていて、和室の襖をソッと開ける。
豆電球の灯りを頼りに、部屋を見回す。
和室には、隙間なく布団がひかれているが、空きが見つからない。
6人部屋のハズだが、あきらかに人数が多い。
今更、マリ達の部屋に戻るのも迷惑だし、どうすっかなー、と眉をしかめているとモゾモゾと起き上がる人物がいる。
「あ、ユウ!お帰りー♪」
小声でそう言われて、ラビだと分かった。
豆電球だとラビの髪の色は同化してしまって、あまり目立たない。
端っこの布団で寝ているラビに近づき小声で問い詰める。
「なんで、俺の分の布団がないんだよ!」
「あー、さっきまでUNOしてたんだけど、皆帰るのめんどくさいって、このまま寝ちゃったんさ。」
「チッ。どーすんだよ。」
マリの部屋に空きがないか聞いてみるかなと思ってるとラビが立ち上がり布団を空けてくれる。
「じゃぁ、ユウ。ここどーぞ。布団あっためといてあげたさ。」
ポンポンと布団をたたかれ、寝ろとジェスチャーして、和室から出て行く。
他の部屋に移ってくれたんだろうか?意外といい奴なんだなと思って、布団にモゾモゾ入る。
秋とはいえ、だいぶ寒さを感じる時期なので、布団の中は暖かくすぐに眠気を感じる。
明日にでも、ちゃんと礼を言うかなー。
ウトウトとしていると、いきなり布団を剥がれて、一気に眠気が吹っ飛ぶ。
「ユウ、もうちょっと詰めてさ。」
暗い中で、頭がついて行かず、一瞬ラビが何の事を言ってるのか分からなかった。
そうしてる内に、ラビは俺の布団の中に入ってきて、布団をかぶり何事もなかったように横になる。
「はっ?お前、別の部屋に行ったんじゃ・・・・・」
「ん?トイレ行ってたんさ。」
「お前っ!別の布団行けよっ!」
「あ!オレの布団に入れてあげたのに、そういう事言うー。」
「うるさいっ!俺はここで寝る!」
「あっ、ユウー。枕、半分貸してー。オレ枕ないと眠れないんさ。」
そう言って、ラビはちょこんと頭を枕にのっけてくる。
――――――っ近いっ!!
枕には、俺も頭をのっけてる訳で顔がものすごく至近距離になる。
なぜか顔がカァッと熱くなり、すごい勢いで頭を引いたら、枕から落ちた。当然だ。
「ま、枕使いたきゃ、使えよ!!」
「えっ?いいのー??」
そう問い返す間も、ラビの片方の目は眠そうに瞬かせる。
ってか、俺らなんで向かいあってんだ!?ラビにあっち向けよと言っても、「んー。」と訳の分からない返事を返される。
イライラして、自分だけでも、反対側を向くと無理やり目を閉じた。
犬にじゃれ付かれて、くすぐったくて、思わず笑った。
そんな夢を見て、目覚めるとまだ首元がくすぐったい。
バッと撥ね上がるように起きると、オレンジの犬が自分の背中にぴったりと寄り添うように寝ていた。
辺りを見回すと、まだ部屋の奴らは起きてないらしく胸をなでおろす。
オレンジの犬―――――ラビとこんなに密着して寝ていたら、絶対にからかわれたに違いない。
急いで、布団から逃げ出すと、顔を洗いに洗面台向かう。
朝のせいか、それともラビの体温が高かったのか、室温がずいぶん寒く感じられて、ブルッと身震いした。
<続>
12000hitリクのラビユウの学パロネタです。紫秋 朔さまからいただきました。
キリ番報告ありがとうございました。
遅くなってしまいましたので、長い奴書こうと思って、頼まれもしないのに、2部制ですよ・・・・。
イヤ・・・・ほんと、遅くなってすいません(土下座)
学パロ普通のシチュエーションじゃなくて、修学旅行ネタなんですけど、よかったでしょうか?
楽しく書かせていただいてます。続きはもうしばし、お待ちください。