この話の後半は性/描写となります。
ぬるいですが、気分が悪くなる方がいらっしゃるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。
前半はウザイ感じの話です。スイマセン。














5時17分――――

アイツのバイトが終わるのが7時だから、約二時間ある。
よし!と腕まくりをして、キッチンに立つ。
冷蔵庫から、卵と鳥モモ肉とコーンの缶詰、野菜庫から、玉ねぎ、ニンジン、ピーマンを取り出す。
冷蔵庫の奥にチラッと目に付いたものは、見ないフリをして。

野菜を丁寧に洗って、玉ねぎの皮を向き、半分に切る。
ザクザクッと包丁を入れていると、ウッとうめく。
玉ねぎが目にしみる。タマネギは、突然激しい痛みが来るから厄介だ。
しかも、今日は特別キツイらしく、包丁を置き、慌ててティッシュで目頭を押さえる。
モヤシが昔、子供にタマネギ爆弾を仕掛けられたと言っていたが、そうとうキツかったろう。












spice!






「ただいま〜、ユウー!!」
のん気な声を共に、同棲しているラビが帰りを告げる。
しまった!と思って、時計に目をやるが、まだ時計の針は5時30分にもなっていない。
なんでだ?とあせりながら、出しだ食材をしまおうと慌てるが、なんせ1LKのマンションの為、何も片付けられない間にラビがやってくる。

「あれっ?ユウー!!なんか作ってるんさ??」

目をランランと輝かせて、こっちを見上げるウサギにしどろもどろになる。

「おっ、お前、今日バイト7時までじゃなかったのかよ!?」

「うん?暇だったからー、ユウに会いたくて帰ってきちゃった!」

人件費削減にもなるから、店長よろこんでたさー!とのん気に言って。
その間もラビは神田に近寄ってきて、神田が背中で必死に隠している、まな板をのぞく。

「ユウ、タマネギ切ってたんさ?もしかして、オムライス作ってくれてんの??」

目ぇ赤くなってるさ、とポンポンと俺の頭をなでる。
子ども扱いすんな!同い年のくせにと手を振り払うと、ラビは不満そうな顔をする。

「こ、これは・・・・食おうかと思って!!」

「ユウ、いつも蕎麦ばっかじゃん!オレの為っしょ??」

ニコリと笑って自身満々に言ってくるウサギにため息をつく。
今まで、コイツに嘘を突き通せたことがない。

「・・・・・最近、部活試合終わって暇になったから・・・」

「うんうん。」

「・・・・だから、・・・・・たまには作ろうかと思っただけだ!!」

怒ったようにいってみても、ラビはよくそんな幸せそうな顔ができるな・・・というくらいに満面の笑みで。
俺が多分、真っ赤になってるのだろう。
ほんとは、ビックリさせたかったのだが。
できあがるまで、楽しみに待っててくれるなら、それでもいいか。

「ユウ!オレも手伝うさ!!」

ラビが腕まくりして、代わりにタマネギ切るさー!ユウを泣かせやがって!!としゃべっている。
あわてて、俺はラビを止める。

「ま、まて!待ってろよ、お前。俺が一人で作るから・・・・!」

グイグイとラビの背中を押してキッチンから、追い払う。
背中にはこないだの誕生日にプレゼントしたボディバックを背負ったままだ。

「えー、ユウ。一緒に作ろう?」

「いい!今日は俺一人で作るんだ!」

せっかくラビをビックリさせようと思ったのだから、一緒に作っては、思惑が外れまくりだ。
包丁を取り、残り半分のタマネギに取り掛かろうとする。







「・・・・。」

「・・・・・・なんだよ?」

ジトーッとした視線にガマンできなくて、振り向く。
キッチンの柱の影から、オレンジ色のウサギがこっちを見ている。

「えー、だってぇ。」

「別に、指とか切らねぇよ!あっちいっとけ!」

いっつも、俺が包丁握ると指切らないように気をつけてとかウザイくらいまとわりついてくる。
シッシッと手を振るが、オレンジのウサギは、柱と同化したように動かない。







「だって・・・・だって、・・・・さびしいさ。」


























「いっただきまーす!!」

パンと手を合わせて、大きな声を出す。
スプーンですくうとトロリとしたフワフワの卵がキレイにのっかる。
口に運ぶと濃厚な旨みが舌を刺激する。

「うっまいさー!ユウの作ってくれたオムライス超オイシーさ!」

「ほとんど、お前が作ったじゃねぇか!」

まだ手のつけてないユウは、むぅ、とちょっとむくれている。
ユウと一緒にいるのに、いちゃつけないのが、寂しくて、一緒に作ったのだが、ユウが指示をだして、オレが作る、という感じだった。
ユウは、まぁ若干手先が不器用だからね。
指切りそうで、ヒヤヒヤするさ!

「そんなことないさ!ユウの作り方だもん。結構スパイスいれるから、大丈夫かと思ったけど、超おいしい!」

オレ、この味好きー♪というと、ユウが視線をそらせて目の前のオムライスをつつく。
嬉しいのに、照れ隠ししてると無性にユウが愛おしくなる。

「ていうか、この卵超フワフワさ!生クリーム入れるとフワフワになるって知らなかったさ!」

「ジェリーが教えてくれたんだ。」

ユウがぼそっと言う。
もしかして、オレに作ってくれる為に、ジェリーにわざわざ作り方聞いてくれたんかなと嬉しくなる。
ただでさえ、好物のオムライス食ってるのに、それがユウが作ってくれて、さらにユウが上手く作れるように調べてくれただなんて思うと、もう!!
口角はニッコニコで、唇が閉じられない。
案の定、ユウに「お前、ニヤニヤしすぎ。」と頭をはたかれた。






























「ユウ、シャワーお先〜♪洗い物ぐらい、オレがするのに!」

カシャカシャと食器を洗うユウに声をかける。
夕飯作ってくれたのだから、洗うと言ったのに、ガンとしてユウが譲らなかったのだ。
水を出そうと思って、冷蔵庫に手をかける。



ガンッ


「痛ったー!ユウ何するんさ!」

冷蔵庫を開けようとするとユウがすごい勢いで扉を閉めた。
当然、冷蔵庫に手をかけていたオレの手は挟まれるわけで。
現在、右手に激痛が・・・・。

「何、出すんだ。」

「え?・・・・水だけど。」

えっ?ユウさんなんでそんな目が据わってるんですか?
ていうか、ものすごいドスの効いた声なんですけど。

ん、とペットボトルの水を突き出される。

「・・・・お前、今月の光熱費いくらか知ってるか?」

「え?・・・・えーっと。」

「また、上がったんだよ!お前が冷蔵庫開けっ放しで何出すか迷うからだろ!!」

イヤイヤ、それくらいでそこまで上がらないさ!
・・・・とは、ユウのすごい剣幕で言えずに、大人しく引き下がった。
















「ユウ、お風呂上がった?」

「おお。」

髪を拭きながら、ユウはソファの置いてある部屋に歩いてきて、ぎょっと目を丸める。

「ちょっ!お前!ラビッ!!何食ってんだ!?」

「ん?オムライスー!」

そう、オレの手には、オムライスの皿が握られている。
パクパクとスプーンを軽快に口に運ぶ。

「お、お前・・・まさか、それ!」

「うん?コレ?冷蔵庫にあったヤツ。」

おもしろいくらいユウが目を見開いて、口をパクパクさせる。
料理を一緒に作ってる間も絶対にオレを冷蔵庫に近づけなかったから、
ユウがもしかして冷蔵庫見られたくないんじゃないかと思って、ユウがお風呂に入ってる間に、冷蔵庫を開けてみた。

マンションについていた冷蔵庫が小さくて使い物にならなかったから、2人で買い直した大きな冷蔵庫。
中を開けると、卵やペーコン、牛乳、生クリームが入っている。
ん?ちょっと量多くね?オムライス2人分作ったのに、なんでこんなに余ってるんさ?
と少しの疑問をいだきながら、冷蔵庫に目を走らす。
すると、缶詰などに隠された奥に、ラップがしてある皿が3つある。

「ユウ、練習しててくれたんさ?オムライス。」

「ちがっ、明日食おうと思って!!」

真っ赤になって否定するが何を言っても可愛いだけだ。
お皿には、オムライスが入ってた。
少しずつ、型崩れしているのが、心臓がきゅうっとなって、ほんとに愛おしくなる。

「つーか!勝手に食うなよ!」

腹減ってるなら、カップラーメンでも食え!とユウが皿を奪おうとする。
ユウは剣道部で鍛えてるだけあって、なかなかすごい力で。
ガードするのは、それなりに必死だ。

「イーヤーさ!ユウが作ってくれたオムライスが食いたいの!」

「それ、マズイし!とにかくマズイから返せ!!」

「おいしーもん!ユウがスパイスとか工夫してくれてるの分かるもん!!」

「もん!とか言うな!キモイ!」

ユウがさり気に傷つくことを言いながら、また皿を奪い返そうとする。
ユウに背中を向けて、一気に残りのオムライスをかきこむ。
ユウがオレの背中をくやしそうに、ひっぱる。

「あー!おいしかった!ごちそうさまさ!」


キッチンに皿を持っていって、ユウとオレのおそろいのマグカップにお茶をそそいで、持って良く。
ユウは、ソファに三角座りをして、むくれている。
マグカップを渡して隣に腰掛け、ユウの半乾きの髪をなでる。

「明日の朝も昼も、オムライスさー!テンション上がるさ!」

ユウは無反応で、まだむくれているようだ。
頬っぺたをつついてみると、うるさそうに手を振り払われる。

「・・・・上手くなってから、食わせたかったのに。」

ユウが三角座りをしたまま、キッとオレを睨む。
身長差があるから、当然、上目遣いになり・・・・。
いやいや、ユウさん。今、2人ともパジャマだし。
そういう気分になりますよ?
ちょっとは自覚してくんないかなーっとため息をつく。

多分、そのパジャマの一枚の下には、やわらかくて、華奢な体があるあのだろうと思うとゾクゾクする。
そっと肩に手を置き、耳に口を寄せる。

「ユウが作ってくれたものは、なんでもおいしいさ?もしマズくても絶対食いたいさ。」

ユウがオレの低めの声に弱い事を知っている。
わざと、耳に息がかかるように、ささやくとユウがビクッと体がゆれた。