「ユウとはもう絶交だから!!」
オレンジの髪の幼稚園児が声高らかに宣言したのは午前10時。
幼稚園が始まって、自由時間に園児たちが遊んでいる時のことだった。
絶交宣言
事の始まりは10分前。
「俺、毎回お母さん役嫌だ。」
ままごとでお母さん役をおおせつかった神田ユウ―――よく間違われるが男児だ―――が不満そうにそう言い放ったのが原因だった。
幼稚園で、遊ぶには時折何かのブームがあるが、それ以外は室内では、定番のままごとが繰り広げられる事が多い。
というのも、小さいながらもフェミニストとして自負している園児が多く、遊ぶグループの中に女児がいればままごとになるのだ。
今回ラビと神田がいるグループもリナリーがいる為、ままごとが始められようとしていた。
が、ままごとの初期段階に行われる配役決定にもめ事が起こってしまった様だ。
「だって、リナリーお姉さん役だし。アレンは犬役さー。」
「ちょっと、僕は犬役なんて嫌です!!」
「私は、犬飼ってる家がいいな。」
「・・・・僕、犬役やりましょう。」
「うるさい!俺は男だ!俺は兄貴の役をやる。」
口々に勝手な事を言い始めた幼稚園児にラビがオロオロとする。
お父さんの役はラビに決まっているが、すぐに働きに出かけるお父さん役には人気が集まらない。
「だって、女の子リナリーしかいないし。リナリーお母さんにしちゃうとコムイ先生がお父さん役の子おっかけてくるしさー。」
「あたしは、お母さん役でもいいけど・・・・、兄さんが、ごめんね?」
ラビがリナリーをお母さん役にするのに、難色を示しているのは、彼女を溺愛している兄が幼稚園の先生をやっていて、
以前にままごとでリナリーがお母さん役をしていると「リナリー!!けっこんしちゃいやだぁぁぁ〜!!!!」と大泣きして乱入してきたからだ。
あろうことか、その後、ままごとのちゃぶ台をひっくり返し、お父さん役のさんざん男児を追っかけまわしたという実例があるのだ。
「・・・・リナリー、お母さん役やれよ。」
腕組みをして考え込むようにしていたユウが口を開く。
その提案に三人とも、特に被害を被りそうなお父さん役のラビが必死で止める。
「ええー!!ユウ、コムイ先生あそこにいるさぁ〜!」
「そうですよ。ほんとにすごいんですから!!」
「・・・・だから、ラビがお父さん役じゃなけりゃいいんだろ?俺がお父さん役する。」
コムイなんか恐くねぇ!!と神田は胸を張る。
女役をする事とコムイから逃げる事を天秤にかけた結果、女役をする方が勝ったのだろう。
「私は、別にいいけど。」
「まぁ、神田がいいって言うなら・・・・
「ダメさっ!!」
神田が納得しているのなら、それでいいだろうと(まぁ、後先考えていない気がするが)
リナリーとアレンが了承しようとした時、ラビの鋭い声があがる
「なんでだよ?」
「だって!・・・・・だって・・・・。」
「ハッキリ言えよ。ラビ。」
「・・・・だって、ユウがお父さん役でリナリーがお母さん役って事は2人結婚してることなんさ!
ユウはオレと結婚するんだから、リナリーと夫婦役なんかしちゃダメさ!!」
「ハァ??別に良いだろ!それに、一回だけだろうが!」
「一回でも嫌さ!」
神田の剣幕に負けまいとうう〜っと必死でラビが反抗している。
いつもは、言い合いになったら、すぐに折れるラビだが頑固な一面もあり、こうなったら譲らない。
特に神田がらみのことは・・・・。
「うるせぇっ!そんな事知るか!!」
「まぁまぁ、ちょっと2人とも・・・。」
「神田もラビもケンカはやめようよ!」
リナリーとアレンが仲裁に入ろうとするが、2人は聞く耳を持たない。
なんたって、ラビが頑固になろうが、神田はそれ以上に頑固なのだから収拾がつかない。
「もー!ユウは分からず屋さ!!」
「お前が変な事言うからだろ!!」
「違うさー!オレは悪くないさ!!」
2人のケンカは治まる様子がなく、リナリーもアレンもオロオロと2人を見ている。
お互い一歩も引かない。・・・ついに、ラビがプツンときた。
「もぉ!いいさ!!・・・・・ユウとはもう絶交だから!!」
ラビが言い放った”ゼッコー”という耳慣れない言葉に神田がキョトンとする。
そんな神田にアレンが「ゼッコーってもう二度と遊んだり、口きかないってことですよ。」と耳打ちする。
すると、神田はスクッと立ち上がって教室を出て行ってしまった。
「別に、ゼッコーでいい。」
という言葉を残して。
行ってしまった神田を見て、リナリーがオロオロとラビの顔を見る。
「いいの?ラビ。神田に謝ってきたら?」
「いいんさ!!もう絶交したんさ!3人で遊ぶさ!」
3人でままごとを再開し始めたのだが、いつもより味気なく全然楽しくないという共通の想いが3人の中を渦巻いていた。
いつもより長く感じられた自由時間もコムイ先生の終了の声で終わりを告げる。
(フンだ!ユウのばか。)
小さなユウの背中をにらみつけて、ラビはイーだ!としてやる。
それもユウは背を向けているので、気がつかない。
今はお昼寝の時間で、園児用の小さい布団に毛布をかけて、皆寝息を立てている。
自由時間が終わっても、当然2人の絶交状態は続いていて、全く2人はしゃべらなかった。
幼稚園のクラスが同じだが、ラビもユウも班が違っていた為、工作の時間もご飯の時間も全く目も合わない。
たまにチラッとユウの方を見ても、ユウはいつもどおりに過ごしていて、それがラビの心を余計に頑なにさせた。
いつもは、事あるごとにユウの元に走っていくラビが今日は全くユウのトコに行かないので、コムイ先生にまで何かあったの?と聞かれた。
もちろん、「ユウと絶交したんさ!」と教えてあげたが。
コムイ先生は困ったように笑って、「早く仲直りができると良いね。」って言ったけど。
(仲直りなんかしないんさ!だって、絶交なんだから!もう口もきかないんさ!)
と自分の誓いをもう一度誓いなおす。
いっつも、お当番の布団をひく係の子に「ユウと隣りにしいてさー!!」ってお願いしてるから、今日は何も言わなかったのにユウの隣にお布団がひかれてた。
今日は、隣じゃない方がよかったのに・・・・・。
最初は、ユウに背を向けて寝ていたけど、ユウがどんな顔をしているのか気になって、こっそりユウの方を向いてみた。
そしたら、ユウもオレに背を向けて寝ていて、何かムカついたので、イーだ!ってしてやったんだ。
ユウの背中を見ていて、ユウがこっち向きそうになったら、急いで背中向けてやるって思ってたけど。
待っても待っても、ユウはコッチ向いてくれない。
だんだん口がとがってくる。
ユウとしゃべりたい・・・・。
絶交じゃなくて、ケンカ中にしたらよかったさ・・・。
そしたら、ユウと言い合いできるのに・・・。
コッチ向け、コッチ向けと念じてみるがユウの背中は微動だにしない。
意を決して、ユウの背中をコヅいてみるが、ユウはうるさそうに毛布をかぶりなおして、オレの手が届かない様、布団の端に移動してしまった。
ムゥッと口を尖らす。
なんだか、視界まで、ユラリと揺れてきたから、急いで毛布を頭までスッポリとかぶった。
暗い中でゴシゴシッと目をこする。鼻をスンとすすり上げて、グッと拳を握る。
ユウと絶交して、泣くなんて、かっこ悪いさ!!よし!!オレは泣いてないさ!!
ユウから、謝ってきたら、許してあげてもいいさ。
だいたい、ケンカの時はいっつも、オレから謝ってるさ。
オレが悪くない時だって、オレから謝ってるし。
だから、今回だけはユウから謝らないと絶交やめにしてあげないんさ!
そんな事を考えているとガバッと毛布が空き、光が差し込んだと思ったら、すぐに元の暗さになった。
なんだと思うより早く、ユウの顔が目の前にあって、思わず抱きついた。
ユウが小さな声で「絶交中じゃなかったのかよ」という。
オレも先生に怒られないように小さな声で「口きいてないからいーんさ。」と言った。
ユウは寝るときには髪を下ろしているから、お昼寝終わったらオレが結んであげようとサラサラのユウの髪を梳きながら思った。
ユウもオレも肩に手を回し、ギューッと抱きついてくる。
なんか、それだけで嬉しくなって、もう仲直りしようかなと思ってしまう。
「もう、リナリーとけっこんの役なんてやらねぇ。」
「ほんと!ユウ?他の誰ともダメさ?」
「・・・分かった。だから・・・・。」
その先は言わなくても分かる。
オレもユウもゴメンって言うのはなんか恥ずかしくて、ましてや自分達が言い放った絶交宣言を取り消すのも男のプライドが許さない。
だから、いつも、ケンカはうやむや・・・。
時間がたてば、また2人で仲良く遊んじゃうっていう。
ま、子供なんてそんなもんでしょ。
だから、ゴメンの代わりに・・・・・。
「ユウ、けっこん式のアレしよ?」
「バカ!ここ幼稚園だぞ!」
「お布団かぶってるから、わからないさ!」
ユウが真っ赤になってることは暗くてもわかるさ。
でも、ユウがちょこっと顔を上げてくれたことでOKの返事だってわかる。
ちゅっとやわらかい唇と唇の感触を楽しむ。
コレをするとなんかドキドキしてすごい幸せな気分になる。
あー、今日ユウと絶交してて損したさー。
「こらこら、2人して、窒息しちゃうよー。」
コムイがのんびりといって、ラビと神田から布団をはぎ取ってみれば・・・・。
「おや・・・。絶交はもう終わったみたいだね。」
安心したように言うと、パジャマから普段着に着替えたアレンが近寄ってくる。
「あ!!2人とも!寝坊した人はおやつ抜きですよ!」
だから、2人のおやつは食べていいですかぁ〜とねだるアレン。
コムイは苦笑して、アレンの頭をポンポンとなでる。
「まぁまぁ、2人が仲直りしたお祝いだし、皆で食べようね。」
そして、コムイは仲良く一つの布団で眠るラビと神田を起こしにかかった。
「ええー!!お父さん役が2人もいるなんて、おかしいですよ!」
アレンの素っ頓狂な声が響き渡るのは、夕方ごろ―――。
詩乃さま8000HITリク
幼稚園パロでした!仔ラビュにはまってくださってるようで、嬉しい!
仔ラビュ人口増やしたいです!捏造とか言わない!
遅くなりまして、すいませんでした!!