「おい、この弁当二つくれ・・・」
「神田!!待ってください!!」

駅の売店の店主に商品の代金を渡そうとする手をつかまれる。
怪訝そうに顔を見上げれば、同じ任務についているアレン・ウォーカーの顔がある。
正直コイツと組まされ、イラッとするが。

「何だよ。」
「・・・・・。」

黙っていたアレンが神田を目立たないように誘導して、店から離れる。
アレンからはいつもの任務時と同じ雰囲気が漂い目つきも鋭くなっている。
さっきの店主からは殺気も何も感じなかったが、コイツの左目が何か反応したのか?

「神田・・・・・。さっきのお弁当屋さんの方が安かったです!!」
「・・・・・は?」

「だから、さっきのお弁当屋さんの方が、同じお弁当なのに2ペンスも安かったです!!」

らんらんと目を輝かせながら、アレンが主張する。
グッと拳を握り締めて、僕食べ物の記憶力だけは自信があります!!と胸を張る。

「・・・・ぉい。冗談だよな?」

「はい?冗談じゃないです!!僕たしかに見ました!!ちょっと遠かったですけど、あのお弁当屋さんと同じ・・・
「お前は主婦か!!」

大声を上げたことで、駅の客の視線がこっちにつきささる。
もともと団服を着ていることで、視線を集めているのに尚更だ。

頬がピクピクと痙攣する。
ただでさえ、任務明けで気が立っているというのに、このモヤシはこんなクダラナイことでイチイチ呼び止めやがったのか。
いっそ、ここでひねりつぶしてやろうか。
さいわい、止めに入るファインダーも事後処理が残っているため、ここにはいない。

「大事なことじゃないですか!!いいですか?神田。1ペンスを笑う者は1ペンスに泣くんです!!」

「知るかぁっ!!教団から支給されているだろうが!」

「だからこそ!!」

モヤシがそこで言葉を一旦切って、息を吸い込む。
顔の形相までかわっていて、道行く子供が指差して通る。
ママァ〜あのお兄ちゃん目が燃えてるよぉ〜、と。

「だからこそ!!定価で請求して、実費との差額を浮かせるんですよ!!」

「セコッ。」

「なんとでも、言ってください!!とにかく僕はさっきのお弁当屋さんまで戻ります。」

げんなりして返す言葉もない。
好きにしろよと手をシッシとするジェスチャーをする。

「神田!!列車が発車しそうになったら、止めててくださいね!」
「知るか。乗り遅れたら、教団まで走れ。」

「ムカつく。もぉ、神田の分は買ってきてあげませんからね!!」

いらねーよ。との言葉も聴かずに白い頭は人ごみの中に消えていった。
列車の発車時刻を確認して、売店で弁当を買い、時間をつぶす為に駅前の店に入った。



































ゼェッ、ハァッ、ハァッ、ヒュー、ハッ、ハァッ
「うるせぇ!!」

「ハァッ、そっそんな事言ったってしょうがないでしょ!!
だっ、だいたい神田!なんで列車止めてくれなかったんですか!左手挟まれたじゃないですかー。」

イノセンス大丈夫かな?と左手をさすりながら、アレンが言う。
コンパートメントで向かい合わせに座っている為、モヤシの荒い息が耳について仕方がない。
ただでさえ、モヤシと一緒の任務でイライラするというのに、余計にイライラする。

「知るか。お前が、買い食いしてるからだろ。だいたい弁当何個買ってるんだ!」

「あ!僕のお弁当狙ってますね。全部僕のなんですから、あげませんよ!!」

ガバッと荷物に覆いかぶさるようにして、ガードしている。
持ち合わせがなくって、コレだけでガマンしたんですーとほざいているが、モヤシの隣には、3つ紙袋が置かれて、さらに飲み物が5個。
これだけあっても、足りないとは、どんだけ燃費が悪い奴なんだ。

「いらねーよ・・・。」

「神田だって、お弁当何個か買ってるじゃないですか!!」
「あ?コレか?なんか知らねーけど、サービスだとかいって何個か持たされた。いらねーってつったのに。」

弁当食って、とっとと寝ようと思って弁当を取り出すとモヤシに指を指される。
取り出した弁当の他に紙袋には、数個店の商品が入れられている。
オススメだのなんだかんだ言って、店主が袋に詰めたのだ。
サービスにしては、度が過ぎている感じがするが、黒の教団の信望者なのか?

「・・・んでだ。」

「は?」

「なんで、世の中顔なんだ!!中身はこんなサイテーの人間なのに!!」

ギャォーっという雄たけびを上げんばかりにモヤシが叫び出す。
言っている内容にピクッとこめかみがヒクつくが・・・・。

「僕なんか!!僕なんかお弁当13個も買ったのに、オマケどころか、お釣りも渡し間違えられそうになるし!!」

「知らねーよ。」

うっうっ、とモヤシが目の前で泣きじゃくる。
ハッキリ言ってウザい。
だいたい前々から思ってたがコイツの運の悪さは並大抵のものじゃないらしい。
今回の任務も一人だけ泊まった宿から雨漏りしてたし、列車のチケットもコイツの分だけ、ファインダーに忘れられてたし、
ジャンケンをすればいつも負ける、くじを引けばいつもババを引く。

「つーか。俺こんなに食わねーから、やるよ。」

「・・・・へ?」

「別にいらねぇなら、いいし。」

「イヤイヤもらいます!!もらいます!!」

そう言って、ガシッと俺の紙袋を掴み取る。
サンドイッチにホットドッグ〜と楽しそうに中身を確認している。

「神田!!僕ははじめて、貴方にいいところがあるって発見できました!!」

「・・・・てめぇ、ケンカ売ってんのか。」

違いますよー!褒めたのに・・・・とモヤシは、口を尖らせる。
フンッと鼻で笑い、弁当を袋から取り出す。
パンにチーズと玉ねぎ、ハムがはさんであるものだ。
マーガリンの味が効いていて、悪くない味だが、早く教団に帰って蕎麦が食いたい。

「ふぁ、ふぁんだって何か買い物してたんですか?」

「食ったまましゃべるな。」

モヤシが口いっぱいにパンをほお張ったまま、隣に置いてあった青い紙袋を指す。
そんなカジュアルなお店で買い物って意外ですねーと紙袋を覗こうとする。

「コレ、俺のじゃねーよ。ラビが欲しがってた限定品がたまたま売ってたから、買ったんだよ。」

「なるほど!!それをラビに高く売りつけるんですね!!」

「違げーよ。別に金とらねぇし。」

「いくらぐらいしたんですか?」

「あー、よく覚えてねぇけど・・・・・5ギニー(10万えんv)くらいじゃね?」

食べ物を次から次にほお張っていたモヤシの手がピタッと止まる。
モヤシの顔からは笑みが消え、コンパートメントに変な静寂が漂う。

「神田・・・。ラビの誕生日ってもう半年くらい前ですよ?」

「知ってる。」

「何かイベント毎でもあったんですか?」

「は?ねぇし。」

「ラビに何か悪いことしたんですか?」

「なんで、俺がアイツの機嫌とらなきゃいけねぇんだ!」

「・・・・5ギニーってお金の価値分かってます?」

「・・・・てめぇ、さっきからケンカ売ってんのかぁ!!」

とうとう堪忍袋の緒が切れて、モヤシの胸倉をつかむ。
モヤシがさっき食っていたパンを喉に詰まらせたらしく、青白い顔がさらに白くなる。
掴んだ腕をギブギブ!!とパンパンたたかれる。
さっきから、コイツは年上を敬う気持ちってものがないのか!!

「だって、じゃぁなんで、日常に5ギニーもするものプレゼントするんですか!!」

もしかして、神田貢いでます?あっでも、神田馬鹿だから、貢がせられてるって気付いてないかー、とモヤシがブツブツ言ってる。
イチイチ相手にするのもめんどくさくてため息をつく。

「つーか、アイツいっつも、金ねーってウルサイからだよ。」

「やっぱり、貢いで・・・ゴホッゴホッ、ラビって何にお金使ってるんですか?やっぱ本とかですか?」

「あー、それもあるだろうけど、アイツいつも俺の服とか買ってくるからじゃね?」

「・・・・神田の私服って・・・・。」

「全部アイツが買ってくるけど。」

コンパートメントにまた静寂が訪れる。
モヤシは一人、ブツブツと呟いている。
その呟いている間にも、買っておいた食料がドンドン減っていってるから気味が悪い。
紙袋はドンドン空になり、ついに残り1個の弁当に手をつけた。






「神田・・・・。僕、あなた達の養子になってあげてもいいですよ!」
































ラビユウと書いて夫婦と読む。
財布は2人で1個なんです!!