「△△△△!!×××、×××??ユゥ??」
毎日遊びに来るそいつは自分の事を指して△△△△と言っている
どうやら、それが名前らしい。そしてなぜかオレのことはユウと呼ぶ。
「ユウ、×××、×××!!」
「オイ、お前。オレの名前はユウじゃねぇぞ!なんで、んな女みてぇな名前なんだよ!!」
オレが痺れを切らして怒鳴ってもソイツは相変わらずニコニコと笑ったままだ。
コイツはオレの言ってることが分からない時でも、いつもニコニコと笑っている。
つい、いつもそれにつられて怒気を抜かれてしまうのだが、コレは訂正しておきたい。
「だから、オレの名前はユウじゃなくて神田だ!!カ・ン・ダ!!」」
「??ユウ?・・・カンダ?」
「そうだ。ユ・ウ・じゃなくて、神田だ!神田!!」
伝えたいところを強調して言う。
これでコイツも分かるだろう。
「ユウ・・・カンダ?」
△△△△は、オレの言った言葉を口の中で反芻している。
いつも半分も意味の通じ合ってないオレ達だが、コレは大丈夫だろう。
「ユウ・・カンダ!!」
「そうだ。Yes!!」
どうやら、通じたらしいことにホッと胸をなでおろした。が、次の瞬間
「ユウ!!×××!!××。」
ガクッ
満面の笑みでソイツはオレに話しかけている。
ダメだ・・・・。全然わかってねぇ。なんでだよ・・・・・。
「ユウ、×××行く。×××、向こう!」!
おかまいナシにソイツはオレの腕をグイグイと引っ張り走り出そうとする。
それでも、オレが動かないのを見て、口を尖らせ六幻をサッと掠め取った。
「あっ、てめぇ!!」
オレが六幻を取り替えそうとするのを見て、ニヤッと笑い駆け出した。
結局、向こうのペースに巻き込まれ、いつもの宿に戻ったのは、日がかなり暮れてからだった。
部屋に入ると、絵描きのオヤジが荷物をまとめていた。
「オイ!!なにやってんだよ??}
オレが相変わらず日本語しかしゃべらないのをみて、絵描きのオヤジは困ったように笑った。
しゃがみこみ、オレと目の高さを合わせるとゆっくりとしゃべり出した。
「カンダ、×××、××行く。×××。朝」
聞きたくなかった単語を見つけてしまい、グッと歯を食いしばる。
部屋の様子からして、いつもの出発の準備のようだった。
明日の朝、この土地を去るのだろう。
今まで、一度だって出発したくないと思ったことはなかったのに。
頭に浮かんだのはいつも馬鹿みたいに笑っている奴の顔だった。
「ユウ、×××!!」
宿を飛び出したオレは、アイツを探して町を走り回った。
やっと見つけた赤は、オレよりも早く、気づいて、走りよってきた。
「××××??」
「・・・・・・。」
云いたい事があって、宿を飛び出してきたのにオレの口からは何の言葉も出てこなかった。
何が言いたくて来たんだ?
明日、この町を出るんだ
だから、会えないんだ・・・・・。
つないだ右手に暖かい体温を感じながら、夜道を歩いた。
相変わらずソイツはオレがほとんど理解できない言葉で話しかけニコニコ笑っている。
いつか一緒に歌ったわけの分からない唄を歌いだした。
前は、真似できたのに今度は喉がつかえて、声が出なくて、ただつないでいる手に力をこめた。
ほんとに明日この町を出るんだ
明日から会えないんだ
お前、勘違いしてるけどオレの名前はユウじゃねぇんだぞ・・・・・
忘れたんだ・・・・
下の名前では誰も呼ばないから・・・・・・
だんだんと宿の方へ近づいてくるにつれて、足取りが重くなった。
最初は、迷惑だったけど・・・・・
お前と一緒にいると楽しかったんだ
一緒にいるのが、嬉しくて・・・・・
明日も、一緒にいたい・・・・
もっと、ずっと一緒にいたかった
伝えたい気持ちは言葉にならなくて
一歩一歩、歩みを進めるごとに、胸の中にドンドンと降り積もった。
宿の戸口まで来ると、ソイツはいつもと変わらない笑顔で俺を覗き込む。
いつか見たように、ソイツのきれいな緑色の瞳の中には、泣き出しそうな俺の姿があった。
あ・・・、そういや緑の瞳ってはじめて見たんだった。
赤い髪した奴もはじめてで・・・。
鬼ごっこも、かくれんぼもはじめてだったんだぜ。
そんな目立つ髪だから、お前来る時、遠くからでもすぐわかったぜ。
俺の国じゃ考えられない、変な色なのに、なんかその色見つけたら嬉しかったんだ。
その辺の植物だって、お前の瞳の色と同じだから・・・・。
奴は、俺の目尻をグイグイッとぬぐって、頬っぺたをグイッとつねる。
「ひゃめっ、ひゃめろよっ!!」
やっと出た言葉は間抜けな言葉で、自分でも眉をしかめるより先にちょっと笑ってしまった。
ソイツもおかしそうに、俺を見て笑う。
そして、安心させるようにポンポンと頭を撫でる。
そして、とびっきりの笑顔で、
「シーユー、アゲイン!!」
「・・・・・シーユー、アゲイン。」
始めて真似した。
いつもその言葉を聞いて嬉しかったから、当たり前のように信じてたから。
俺の言葉は嘘になってしまうけれど・・・・。
俺の偽りの言葉を聞いて、ソイツは嬉しそうにうなづいた。
そして、大きく手を振って去っていく。
何度も何度も振り返り、手を振りながら。
アイツは、明日もあの場所で待つのだろう。
俺の偽りの「シーユー、アゲイン」を信じて。
あの頭のネジ緩んでるんじゃないかって心配になるくらいの笑顔で。
そして、
俺は、泣いた。
はじめて声を上げてないた。
宿の中にいた絵描きのオヤジがビックリして飛び出してくるくらい泣いた。
それでも、
それでも、明日、あの場所で待つアイツには届かない。