06



「よかったら、めし食ってくか?」










ユウの言葉になんて答えたのか自分でも分からないほど、舞い上がっていたと思う。

気がついたら、ユウの後ろについていき、ユウの家の和室に座っていた。

「食欲は、あんのか?」

ユウの問いかけに、声が上ずりそうになって、コクコクと頷いた。

「そうか。」と言ってキッチンへと向かうユウの後姿と見送った。

ユウの家はなんとなく、和風の家かと思ってたら、普通の一軒家だった。

家族がいるかと思って、身構えたが、ユウが玄関の鍵を自分で開けていたし、家の様子からして、

今は、ユウ一人らしい。

取りあえずは、ユウの家に上がらしてもらったけれど、親とか帰ってきたらどうしようと考えた。

イヤイヤ、別にやましいことしてるわけじゃないんだし、普通に挨拶すればいいよな。

(えーっと、はじめまして。同じクラスのラビって言います。ユウさんとは、仲良くさしていただいてて・・・

って、チョイ違うさー。なんか堅苦しいし、もっと普通に・・普通に・・・・)

ガチャッとドアが開く音がして、ラビの思考は中断された。

家族が帰って来たさ!!とラビの心臓はドキドキと早鐘を打つ。

しかし、ラビの待つ和室には、向かわずに、台所へと直行したようだ。








「なんだ!!また蕎麦ジャン!!」

「うるさいっ!!文句言うなら自分で作れ!!」

帰って来た人物とユウの言い争う声が聞こえる。

声が意外に若いので、アレ?と拍子ぬけする。お兄さんかな?と想像し、体のチカラが少しだけ抜けた。

「ってかさー、誰かお客さんの靴置いてあったジャン!!」

話題が自分の事になり、せっかく抜けた体のチカラがまた戻ってくる。

「クラスの奴・・・・。」

声が少し、低くなったユウの言葉を聞き逃さないように、耳に神経を集中させる。

「彼氏??」

「はっ!!ちげーよっ!!勉強教えてもらってる奴だ。」

全力で否定するユウの声にラビはガックリとうなだれた。

「そんなムキにならなくても良いジャン。ちょっと、挨拶してこよーっと。」

「余計な事はいうなよっ!」とユウの声と一緒にトントンと和室に近づいてくる足音に思わず、ラビは正座になる。

ガラッと襖があいてヒョッコリ顔をだしたのは、ユウよりも少し背の低い男だった。

「コンチハー。神田の友達なんだって?」

「は、はい。まぁ、いつもお世話になってます。」『友達』という響きに喜んでいいのか、少し戸惑う。

「神田が友達連れてくるなんて、珍しいジャン!オレ、神田のいとこのディシャ。」

ゆっくりしていってねーと声をかけ、ディシャは自分の部屋に戻った。

それと、同時くらいに、お盆を持ったユウがあらわれる。

手際よく、テーブルの上に並べられた2人分の食器には、ざるそばの上にとろろがのっていた。

「とろろそばさー。」

「夏バテに効くから、ちゃんと食えよ。」

「うん。ありがとうさ!!」

向かいあってズルズルとお互いに蕎麦をすする。

夏バテというのは、口実とはいえ、毎日味気のないそうめんを一人で食べていた毎日では、さすがに体が参ってたようで、

とろろ蕎麦が思っていたより、ドンドンと喉を通る。

あっという間に、目の前の容器を空にして、ユウにお礼を言う。

「ごちそーさま!!すっげーうまかったさー。」

「腹減ってたのか?」

ユウは、半分も減ってない容器を持って目を丸くしている。

「へへっ、毎日そうめんだったから、すごい新鮮だったんさー。」

「毎日そうめんって体壊すぞ。」

「ひとりだと、めんどくさくってさー。コンビニ弁当もあきたし。」カバンの中をゴソゴソと携帯を取り出し、時間を確認する。

(あっ、ユウに作ってもらったご飯写メとっときゃよかったさ(泣))

こっそり、蕎麦を食べてるユウを写メ撮れないかとカメラモードにして、ユウを狙う。

『ピロリロリ〜ン』携帯のシャッター音にユウげビクッとしてこっちを見る。

「電話か?」

「え、ううん。写真さー。」

ヘラッと笑って携帯に写ったユウの姿を見せる。「撮るなよっ」赤面しながら、ユウが携帯を奪う。

「あ、消さないでさー!!」

ユウから携帯を返してもらおうと伸ばした手はパシッとはたかれる。

「ユウゥー!!」

消さないで、と懇願してると「消し方わかんねぇよ。」と少しふくれっつらのユウが携帯を返してくれた。




グーのパンチつきで。

本日の成果は、グーのパンチでユウの写メ一枚。安いもんさ。






お礼を言ってユウの家を後にしようとするとユウが珍しくちょっと口ごもるようにしゃべりかけてくれた。


「あのさっ、オマエ、ほんとに毎日そうめんとかなんだったら、たまに食いに来いよ。」

一瞬、あまりに自分の都合の良いユウの提案に、耳を疑う。

「え!?いいの?」

「ああ、剣道部の試合終わったら、部活も少なくなるし、ちゃんとしたメシ作る時間もあるし・・・・。」




本日の成果は、ユウの写メ一枚に、ユウからのご飯のお誘い!!しかも手作り!!













でも、今一番、頭を占めていることは、和室に座ったユウのスカートから伸びたスラリとした白い足だったり、

携帯を取り合ったときに触れた指を思い出して、ドキドキするラビだった。

(今日は、絶対寝られんさー。)


















青春イチャラブを目指したかったけど、コレで良いのか??




07





パシャッ


水面から顔をあげて、暑すぎる太陽を感じる。

外の攻撃的なまでの夏の暑さから、遮断された水の中の世界がラビは好きだった。

プールから、上がると自由に動けた水の中と外との重力の違いからか若干ふらつく。

耳に入った水を抜いていると後ろから声をかけられた。

「調子いいじゃん。今日。」

振り返らなくても分かる少しニヤついたような声に返事をする。

「大会近いから、ガンバレって言ったのはそっちさ。」

「いやー、でも、今日なんかタイム急に伸びてるし。ココまで来て、さらにタイム上がるってなかなかすげーよ。」

「才能あるかもよ?」よく日に焼けた右手が、クリップボードをめくる。

やっと、耳の水が抜けて、軽く頭を振りながら、水泳部の顧問を見る。

もともと日に焼けた肌だったが、連日の水泳部の練習でさらに日焼けしたようだ。

水泳部の顧問のティキに弱みを握られたのは、夏休み初日。

大会に出る人数が足りないということで、水泳部に助っ人しろと半ば、いや、しっかりと脅された。

水泳部は毎日練習があるから、この鬼!!と思っていたら、意外に神田ユウの補習を手伝わせることもさした。

それがきっかけで、片思い中の神田ユウと仲良くなれたのだから、ちょっとは感謝してやってもいいかなー、と思ってる。

アメとムチの使い方の上手い食えない教師ということももちろん忘れてはいない。

しかし、連日水泳部の練習に参加していて分かったことだが、部活の顧問といってもほとんど名ばかりな教師がほとんどだ。

せいぜい、試合についてきたり、合宿についてきたりするだけの部活もある。

しかし、ティキは毎日の水泳部の練習に毎日参加し、体育教師でもないのにしっかり指導もしている。

たしかに、人気が(女子の方が多いけど・・・)高いのもうなづける教師だった。


「こんなに真剣にがんばってくれんのは、水泳部に入部してくれる気になった?それとも・・・・」

タイムの載ったスコアボードを水泳部のキャプテンに渡した。

「・・・・なんか、いいことあった?」

ティキの顔を見上げると、夏休み初日に見たあのニヤついた笑顔がそこにあった。



(前言撤回!!やっぱ、チョーやなやつさ!!)









































ティキに簡単に見透かされたような気がして、あせった。

(オレってチョー単純な奴なんさねー。)

まさか、タイムがこんなに伸びるとは思わなかった。

原因は、昨日のユウの言動・・・・・・

『たまに食いに来いよ。』
『剣道部の試合終わったら、部活も少なくなるし、ちゃんとしたメシ作る時間もあるし・・・・。』

言われたときは、舞い上がって気がつかなかったが、よく考えるとあんなセリフ嫌いな奴に言うはずがない。

「知らない奴とはつきあわない。」ユウの彼氏になれる第一関門は突破しているように思う。

(だって、仲良くなったし・・・・・。もしかしたら、ユウ、オレの事好きでいてくれるのかな?)

携帯を開き、昨日撮ったユウの待ちうけを見ながら、ゴロンと部屋に寝転がった。

スケジュール画面を開き、日にちを確認する。

(やっぱ、オレの誕生日はユウに祝ってもらいたいさ!!)

誕生日までのスケジュールを確認する。

もうかなり、誕生日が近いので、誕生日に告白するのもアリだが、万が一フられた場合、一生のトラウマになりそうだ。

ラビとしては、一刻も早く付き合って、ユウと恋人としての夏休みを過ごしたい。

逆算していくと、ユウとの勉強会が2回ほどあるが、勉強会で告白というのもムードがない気がする。

「・・・・・あさって、夏祭りさ。」


































トゥルルル、トゥルルルル

ゴクリと息を飲み込み受話器を固く固く握り締める。

「はい、もしもし。」

電話機の向こうにユウが直接出てホッと胸をなでおろす。

「あ、もしもし。ユウ?オレ、ラビさー。」

「ああ、どうした?」

何も考えず、ほぼ勢いで、電話したが、本人の声を聞いていきなり心拍数があがる。

「あ、あのさー。あさって、夏祭りがあるんさ。花火とかもすごい、キレーなんさ・・・」

一緒に行こう・・・の言葉が喉の奥にしつこくしがみついてて、全然言葉にならない。

「・・・・・・。」

無言のユウにタラリと冷や汗が出る。やっぱり、皆で行こうとかの方がいいかな?と焦る。

「・・・あさっては、他校との剣道の練習試合なんだ。」

ボソッとユウの声が受話器から聞こえた。

「あ、そうなんさ。夕方とか夜なんだけど、無理?」

「・・・・多分、遅くなると思うし。悪い。」

「あ、イヤイヤ!!全然!!急に誘って悪かったさー。試合がんばってさ!!」

ショックを受けたことがユウに伝わらないように必死で明るく答える。

「おう、ありがとうな。じゃぁ、また。」


手汗がしみこんでるんじゃないかというくらいの受話器をカチャンとおいた。

まだドキドキしている心臓を落ち着かせたくて、フーッと息をつく。

まだ、ショックが強く残っている頭で、誕生日までの日にちを逆算する。

出した答えは、


もう、ムードとかなんとか、言ってらんないさ!!勉強会の帰りに絶対告白するんさ!!





















ティキぽん、いい奴説。でも、実は、水泳部で男子好きとの噂もこっそりあるらしい(笑)



08











「りんごあめー、りんごあめー。」
「おかあさん、金魚すくいやりたーいっ!!」
「お兄さん、ポテトとから揚げ旨いよ〜!買ってって〜!!」






うるさいくらいの喧騒と肌にまとわりつくような湿気は夏祭りに来た!と実感させる。

「ラビッ!!遅かったじゃねぇか。」

待ち合わせの場所に近づくと、夏休み以来の顔ぶれがそろっている。

ユウには、断られてしまったが、結局夏祭りには、クラスの仲のいい奴に誘われて来ている。

「ひさしぶりじゃんかっ!!」
「おまえ、毎日水泳部の練習にまともに出てるんだってー?」

久々に合うクラスメイトは、皆少し日焼けしていて、男子の集まってる近くに、カラフルな浴衣の女子のグループがいる。

おそらく、自分の知らないうちに、この中の何組かは、カップルになっているのだろう。

それを見て、ラビはちょっとくやしくなった。

(あー、おれもユウと来たかったさー。)











夏祭り会場を冷やかし半分、ぐるりと皆で見てまわり、夏祭りもそろそろ中盤にさしかかった。

ドーンッという音と共に夜空に、夏の華がさく。

「あ・・・・花火。」

近くにいたピンクの浴衣を着た女子が呟く。

つられるように、首を上に向けると、職人が一発目に気合を入れただろう花火が見事に打ち上げられていた。

「すっげーっ、キレイさー。」

「ラビくん、花火好きなの?」

「う・・・うん。」

ほんとは、ユウと来たかったんだけどね、と心の中でつけたす。

「あ、あたし、花火キレイに見れる穴場のトコ知ってるよ!!行こう!!」

女の子の気迫に押され、ウン、とうなづいた。

「おーい、花火見る人こっち来るさー。」

ちょっと離れてしまったクラスのグループの奴らに声をかけ、早く行こうとせかす女の子についていった。


人ごみを掻き分け、ほんらい夏祭りの主役である神社の境内に上る。

女の子は浴衣のまま器用に石段をテンポよくのぼっていく。

境内につくと、人はまばらになり、さらにその奥へと女の子は案内する。

ラビが後ろを振り返ると、クラスの奴らは誰もついて来ていなかった。

「あ、ちょっと待つさ!他の奴、聞こえなかったのかな?ついて来てないさー。」

女の子も振り返りちょっと小首をかしげるように言った。

「ほんとだね。みんな夜店の方に、夢中なんだね。」

「どうする?引き返そうかー。」

いくら、携帯を持っていても、この人ごみではぐれるのは面倒だ。

ラビがそう言って携帯を取り出した。

「あ、でも、ほんとにすぐそこだから、ちょっと花火見てから戻ろう?」

ラビの袖を女の子は少し引っ張って、行こう?と首をかしげた。

「うん。わかったさ。」

まぁ、ここまで来てしまったら、仕方がないと思いラビは大人しく女の子に従った。

境内の少し奥の空き地は高台になっていて、花火を見ようとする先客が何組かいた。

(うわぁ、カップル多いさ・・・)

ちょっと予想はしていたが、密着したカップルの側を通る時は、なぜか赤面してしまう。

花火は、次々と打ち上げられ夜空に大輪の華をさかす。

打ち上げられる度に、空き地に小さな歓声がわきおこる。

(ユウにも見せてあげたかったさ・・・)

「すごい、キレーでしょ?」

「うん。ありがとー。」

少し得意げに言う彼女に素直にお礼を言った。






「あ、神田さんっ!!」

何発目か花火が打ち上げられた後に、彼女の声に体がビクッと反応する。

すぐに、彼女が見ている方向に目を向けると、ラビたちから少し離れた暗がりに、ユウらしき人の姿を見つけた。

ユウもこっちに気づき、小さくペコッと頭を下げる。

「ユウっ!!試合終わったんさ!?」





ドォォォォンッ

次の花火に照らし出されたのは、ユウとユウの隣にたたずむ見たことのない男の顔だった。


























09








夏休み

YU SIDE






―――――――ほんとに、ほんとに、すごく大事なものだったんだ。




夏休み前の終業式で、気の遠くなりそうな校長の話を聞き流しながら、ふと違和感のある左手に目をやった。



(・・・・っ!!ないっ!!)

すっかり、手首に馴染んでいた数珠がなくなっている。


「えー、ですから・・・皆さんには・・・。」

どうしよう、どうしようとあせる思いだけが自分を取り巻き、延々に続く校長の話もざわついているまわりのクラスメイトの声も切り離された別世界のような感じがした。

数珠は、いまは会えないあの人からもらったもの。

あの人と自分をつなぐ絆が欲しくて、あの人がつけていた数珠をねだってもらった。

思い出だけじゃ、嘘になりそうで、数珠にすがった。

終業式が終わり、人の流れに流されあるままクラスへ帰るときも、心臓がドキドキし、何もつけてない左手首をギュッと握った。






「と、言うわけだから、皆夏休みだからって、ハメをはずしすぎないように!!」

担任のセリフを合図に、夏休みへと解き放たれた生徒がガヤガヤと騒ぎ出す。

その間も神田は、机やカバンの中をずっと探し続けた。

クラスメイト達の大半は、街に遊びに行く者が多く、クラスはすぐに空っぽになる。

教室中を探し回ったが、見つからない。

もしかして、大掃除の時に誰かが捨ててしまったのだろうか?

(あっ、まてよ。掃除の時してたじゃねーか!)

神田の掃除の分担はプール付近の掃除で、掃除が終わったら、教室に戻らずそのまま終業式の体育館へ向かったハズだ。

体育館は、終業式の帰りに落ちてないか注意深く探しながら、帰ったから、プールの方が可能性が高い。

神田は急いでプールへと向かった。




排水溝や手洗い場を一つ一つ確認してみるが、数珠は見当たらない。

地面からの照り返しを受けながら、見つかってくれと願いながら、探し続けた。









「あれ?神田さん。」

後ろから、かけられた声に振り向こうとした瞬間、グニャッと視界が歪み、意識が途切れた。


























「じゃぁ、ユウ。また明後日にね!」

ニッコリと笑って手を振るラビに小さく手を降り返した。

ラビには、夏休みが始まってから、週に数回、勉強を教えてもらっている。

ラビは水泳部の助っ人で、神田が剣道部だから、お互い、部活のない午後が勉強会の日だ。

いいやつだな、と最初はそう思った。

熱中症で倒れた時も、勉強会のときもすごく面倒見のいいやつだと思った。

でも、最近それだけではなくて、少し好きなのかもな・・とも思うようになってきた。

勉強会で、至近距離で目が合ったり、ニコッと笑って話しかけられたりすると、

心臓がドキドキして、目をそらしてしまったり、無愛想にしか答えられなかったりするが、

また、目が合えばいい、話しかけてくれないかなと思っている自分がいた。

でも、とブンブンと頭を振る。

制服を返しに行った時に、水泳部の奴らが言ってたがラビには彼女がいる・・・らしい。

クラスでも、ラビは彼女がいると聞いた気がする。

早く本気になるまえに、あきらめてしまわなければ、と自分をせかした。



















「『ありがとうございましたっ!!』」

剣道部の練習試合が終わり、着替えて外に出た頃には、すっかり暗くなっていた。

今日は、夏祭りだったな・・・。

ラビが誘ってくれたのは嬉しかった。

それを思い出に、淡い気持ちを忘れる事ができたかもしれないのに。

ぼんやりと帰路に着くと後ろから、声をかけられた。

「神田、後ろに乗るか?」

振り返ると、他校の剣道部員だが、昔、道場で一緒だった幼なじみだった。

男子部員とは高校になるとさすがに交流はないが、コイツは昔道場が一緒だったこともあり、

チョクチョク連絡を取っていた。

「ああ、頼む。男子のほうも、練習試合だったのか?」

「いやー、女子の応援。」

道具を彼に渡し、ヒョイと後ろに飛び乗る。

手馴れた様子で、道具を自転車に乗せると彼は、グッとべダルに力をこめた。

家も近所なので、わざわざ道案内せずとも、安心して任せられる。

「そういや、今日、夏祭りだろ?」

「ああ、もうだいぶ終ってんだろ。」

「花火は終盤だし、ちょっと見て行こうぜ。」





夏祭り会場に近づくと、ごった返した人の波と屋台の香ばしい匂いが漂ってきた。

人ごみが苦手だという神田の性格を理解してからか、彼は夏祭り会場へは向かわずに、

神社の近くに、自転車をとめる。

「荷物はこのままでいいか?花火始まってるからいそぐぞ。」


ドォン、ドォンという音が既に何発か聞こえてくる。

神社の石段を急いで登り、奥の空き地へといそいだ。

小さな花火スポットになっているソコについた時、花火に照らされたオレンジを見た。

暗い中でも、目を引くオレンジの頭は、間違いようもなくラビだった。

傍らには、可愛らしいピンクの浴衣の似合ったクラスの女子が立っている。


(ああ、やっぱ彼女いんのか・・・。)

キュッと心臓の絞られるような感覚には気づかないフリをして花火を見た。






「あ、神田さんっ!!」

ラビたちに気づかれないような距離にいたはずなのに、ラビの彼女は気づいたようで声をかけてきた。

どうしたらいいか、わからずに、小さく頭を下げる。

「ユウっ!!試合終わったんさ!?」

ラビが驚いた様に声をかけてくる。

「知り合いか?」

「クラスの奴ら。」

幼なじみに短く答える。

なんとなく居づらくなって、彼に帰ろう、と小さく声をかけた。

もう一度、頭を小さく下げて、帰ろうとした時、グイッと手をつかまれた。





「誰?」

驚いて、振り返ったのと、真剣な表情のラビが腕をつかんで聞いたのは、同時だった。





















幼なじみが思ったより、男前になった(笑)


10







ユウの隣に知らない男の顔を見たとき、しまったと思った。

先をこされた?

ユウとしゃべっている感じでは、彼氏はいないと思っていた。

でも、直接聞いたわけじゃない。

もしかしたら、ずっと付き合っていた彼氏がいたのかもしれない。

「ユウっ!!試合終わったんさ!?」

ラビの問いかけが聞こえなかったのか、ユウは隣の男と何か言葉を交わして、

こちらにペコッとお辞儀をするとクルリと背を向けた。

その様子にラビは、口の中がカラカラに乾くのを感じた。


「誰?」

帰りかけたユウの手をつかんだのも、必死にでてきた言葉も全部無意識だった。


「えっ・・・・・、隣の学校の剣道部のやつ。家が近所なんだ。」

振り向いたユウの顔は、驚いた顔をしていた。

「・・・・彼氏?」

自分でも、笑ってしまうくらい声が掠れた。

「え?ッ違う!」

「ほんとに?」

「・・・・・・・。」

ユウが否定しても、頭はついていかず、口の中は乾いたままだ。

ユウはオレの意味の分からない行動に戸惑ってか、黙ったままで、俺たちの間はシンとした。

さっきは、あんなに大きく聞こえていた花火の音が、今は遠くで聞こえているようだ。

































「・・・・・ユウ、好き。」

沈黙の後、やっと出てきた言葉は、4ヶ月越しにでてきた思いだった。

あんなに、伝えられなかった言葉は、たった四文字で、言葉に発したのは2秒くらい。

ユウの反応が怖くてずっと、言えなかったけど、今は伝えられただけでひどく満足している。

「・・・・・オレも・・・・好き・・だ。」

途切れ途切れに、一生懸命ユウは答えてくれた。

伝えることに精一杯で、ユウからの反応を考えてなかったから、一瞬頭がフリーズする。

「えっ!?ほ、ほんとにっ??」

声が裏返ってしまったが、大好きな黒い瞳はまっすぐにオレを映してくれて、うなづいた。

心臓が今更ながらにバクバクする。

手の汗をシャツでぬぐって、一呼吸おく。

「ユウ、オレとつきあってほしいさ・・・・。」

「・・・わかった。」

ユウの返事と共に、パチパチとまばらな拍手が起こる。

見るとユウの隣の彼や、花火の見物客のカップルたちが拍手をしてくれていた。

「おーい、おめでとう!!兄ちゃんたちよかったなぁ!」

酔っ払いのおっちゃんに祝福の言葉をもらい、周りの人たちに聞かれていたことに、赤面する。

チラリとユウの様子をうかがうと、暗がりで見えにくいが、オレに負けないくらい赤面しているようだった。



























ユウの幼なじみと別れて、クラスの女の子も皆のトコへ送っていって、ユウと一緒に家路につく。

最初に嫌われたらいけないと思いつつも、どうしても言っときたいことがあった。

「ユウ、夏祭り来れないって言ったさ。・・・・夜でも無理だって。」

どうしても、唇がアヒル口になってしまう。

男のくせにネチネチと責めるのはよくないさ!!と頭は警戒音をならす。

でも、どうしても、心の中にわだかまりができて言葉が出てしまう。

「・・・うん。悪い・・・。遅くなるから、悪いと思ったんだ。」

「でも!!でも!!遅くても一緒に行きたかったさ!」

付き合って早々ケンカはさけたい。

しかし、今まで、ガマンしていた分好きだって気持ちがあふれ出てきてしまう。

その分、自分の誘いを断って、幼なじみと一緒に来ていたことが、不満だった。

ぶぅっと頬っぺたが膨れているのが、自分でも分かった。

「・・・・彼女かと思った。」

「へ?」

ユウが突然もらした言葉に頭の中が?マークでいっぱいになる。

「さっきのクラスの女子。」

「えっ、ああ。全然違うさ!!クラスの皆で来てて、花火見に行くのが、たまたま2人になっただけで・・・・」

でも、端から見れば、俺たちはカップルに見えただろう。

ユウと幼なじみが彼氏彼女に見えたように・・・。

「うっ・・・・、誤解させるような事して、ごめんさ・・。でも、あれは、皆で花火見に行こうとしたのに、ほんとにたまたまっ!!」

「ずっと、彼女いるって思ってたんだ。」

必死になる言い訳をさえぎるようにユウがボソッと言った。

「えっ?なんで?」

「クラスのやつらがそう言ってたし。水泳部のやつらも・・。」

ユウが制服を届けてくれたときのことを思い出す。

『コイツ高校入って彼女3人目だって!』

「違うんさ!!あいつらほんとに、ちょっと女子としゃべっただけで、つきあってるとか言ってるだけさ!!」

言い合っているうちに、ユウの家の前へとついた。

ユウがチラッと家の明かりを気にするように振り返った。

あんまり、家の前で長居したくないのかもしれない。

ユウの荷物を肩から下ろし、ユウに渡す。

「・・・ほんとに、ほんとにユウのことが、入学式のときから、好きだったんさ。」

これだけは、今日絶対伝えて置きたくて振り絞るように言った。

「明日、部活終わったら、学校でまってるさ。」

そう伝えて、ユウに背を向けようとすると、クィッとそでをつかまれた。

「あのっ、あのな、彼女いるって思ってたから、あきらめようって思ってたんだ・・・。」

夏祭りの夜でも、少し離れた住宅街のここまでは喧騒は届かない。

だから、ユウの次の言葉もしっかり聞こえた。












「・・・だからっ、だから、すごく嬉しかったんだ・・・。」


































ヘタレラビのくせに公開告白