I MISS YOU.








フンフーン♪

ベットに寝っころがって、一人ご機嫌に鼻唄を歌っているのは、ラビだ。

任務明けで報告書を書き上げ、自室のベットにもぐりこんだのは、昼ごろだった。

記憶をたどるまでもなく、ベットに入った時は、一人だったはずだ。

なのに、今シングルベットには、陽気に鼻唄を歌っているウサギとひしめき合う様にベットに寝ている。

「・・・・おい。」

「あっ、ユウ起きた??お帰りー♪」

チュッと軽いリップ音と共に、額に柔らかい感触がし、条件反射のように眉間にシワがよる。

「何しやがる・・・・。」

寝起きでいつもの迫力がでず、いつもの文句も気の抜けたコーラのようだ。

「へへ、お帰りのチューさ!!あ、ゴメーン。口が良かった?」

調子に乗ったウサギがこっちに身を乗り出す前に、頭をゴツンとやる。

痛いさー、と文句を言うラビにフンと鼻をならす。

ゴロリと寝返りをうち、ラビの方を見ると何やら、紙に向かってペンを走らせている。

「何してんだ?」

「うん?ユウへお手紙書いてるんさ!!」

「隣にいるだろーが。」

あきれて言うと、「いいんさー。コレは別♪」と楽しそうに答える。

しばらく、ラビの横顔を見ていたが、真剣な顔をしたり、ニコニコ笑ったりとクルクル表情が変わる。

百面相みてぇ。

しばらくすると、文につまったのか、ペンの後ろをカリカリとかむ。

何をそんなに一生懸命になっているのか少しだけ興味がわく。

「ああん!見ないでさー!!」

こっそり手をのばしたら、すごい速さで手を阻まれた。

「キモイ声だすなっ!」

腹いせに軽くラビを殴り、背を向けた。














「ねぇー、ユウ!!『I LOVE YOU』って日本語で、『愛してる』でしょ?」

気がつくと、またウトウトとしていた。

「ん?ああ。」

「じゃぁ、『I MISS YOU』は?」

聞かれた内容で、またこっぱずかしい事を書いてるんだろうと思って、ため息が出る。しかも、日本語で。

「『I LOVE YOU.』って日本語でピッタリの意味があるのに、『I MISS YOU.』って難しいんさ。」

また寝返ってラビの方を見ると真剣な顔でウーン、と唸っている。

窓の外からは、ラビの髪と同じ色の光が、部屋に差し込んできた。

「私は、あなたの不在に気がつきました。」

「なんさ!!それ!?直訳しすぎさー!そうじゃなくって、任務でユウと離れてる時とか、うわぁーって気持ちが溢れてきて、
ユウーッ!!て思うとき、『I MISS YOU.』って使うじゃん!!こんな時、日本語はなんて言うんさ?」

オレンジ色の光の中で必死にジェスチャーするラビがおかしくて、口角が自然に上がる。

英語を覚えたてのころの、英語を日本語に訳して理解していた頃が、懐かしく思い出された。

英語は日本語より、中途半端で、一つの言葉を色んな意味で使えるから、よくそれで、昔は混乱していた。

英語を英語のまま、しゃべるようになったのは、いつからだろう。

「『会いたい』とか『寂しい』とかとも、ちょっと違うんさー。悲しい意味じゃなくって、プラス愛!!みたいな意味の言葉ないさ??」

「・・・・そんな日本語はねぇ。」

ほんとは、一つだけ思い当たるのが、あったのだけど。

一度も使ったことのないその言葉がばれない様にそっぽ向いた。

だから、「ユウはボキャブラリー少なそうだからなぁ・・・」というラビの暴言も無視した。
































「ユウッ!!ユウッ!!起きて!!」

バシバシと遠慮なく叩かれる手に無理やり起こされた。

寝起きで不機嫌になる暇もなく、ラビにベットから下ろされ団服を羽織らされる。

「なんだ??任務か?」

「ユウじゃなくて、オレが今から任務なんさ!!地下水路まで見送りにきてさ!」

半分寝ぼけてる頭のまま「ああ。」とうなづいて、ラビの後ろについていく。

「お前、結構立て続けに任務なんじゃねぇ?」

「こないだのは、ブックマンの方の仕事なんさ!任務と続いちゃってて、今日だけ教団にいれたんさ!」

「ふーん。そうか。」

だったら、もっと早く起こせばいいのに、という言葉は心にしまった。

いつも、うるさいくらいに一緒にいたがるラビのことだから、ほんとはオレに起きてて欲しかったのだろう。

でも、任務で疲れていると気遣って、寝かしてくれていたにちがいない。

ほんとに、へんなトコばっかに気をまわす奴だ。

出会った頃から、変わってない。

オレも一緒にいたかったとは、口が裂けても言えないが。

地下水路までの道はあっという間で、口下手な自分はラビに本心を匂わすようなそんな気の利いたセリフは思い浮かばない。

その角を曲がれば、地下水路につくところで、ラビはピタリと足を止めた。

クルリと振り返り真正面から、オレを見つめる。

「ユウ・・・・、あのさ4時間早いけど、・・・誕生日おめでとう。」

ちょっと、口ごもりながら告げられた言葉は思いもよらないもので。

もうそんな時期だったのかと、今日の日付を思い出した。

「ああ・・・、サンキュ。」

ラビはオレの手をキュッと握り、いつもより真剣な顔で顔を近づけた。

触れ合った唇は、いつもの熱を求めるようなものでもなく、挨拶がわりのものでもなく、まるで神聖な儀式のようで。

初めてのキスのように、触れ合わすだけのキスが終わるとラビはギュッとオレを抱きしめた。

悔しいが奴の方が背が高い事が、こういうときに実感させられる。

ラビの首筋に顔を埋めて、耳をピタリとラビの首に当てるとトクン、トクンッと気持ちいい音が聞こえる。

お互いよりかかるように抱き合い、この時間が一生続けばいいと柄にもなくそう思った。

しかし、ブックマンの出発をせかす声で、2人は離れる。

ラビが名残惜しそうにオレの頬を愛おしそうに、撫でる。

「ユウ、すぐ帰ってくるから、いっぱいお祝いしようさ!!だから、待ってて!!」

「任務が無きゃな・・・。」

こんな時まで、素直になれない自分にあきれる。

しかし、ラビは心底嬉しそうに笑うと、ポケットから、封筒を取り出した。

「ユウ!これ、手紙書いたんさ。オレが出かけてから読んでさ。」

そういうとラビは、オレの手に無理やり手紙を握らせた。

「今読んじゃだめだからね!!」

と念を押し、地下水路へと走っていった。

慌てて、ラビを追ったが、すでにラビは船に乗り込んでいた。

「気をつけて、行ってこいよ。」

「うん!行ってくるさー!」

ヒラヒラとこちらに手を振ってオレンジの頭は小さくなっていった。



























部屋に戻ると、ずっと握っていた封筒から、手紙を取り出す。

ずっと握っていた手紙は少しだけ、暖かかった。







『 しんあいなる  ユウ へ

ユウ、たんじょう日おめでとう!!

ユウといっしょにたんじょう日いわいたかったんだけど、にんむがあって、いっしょにいれなくなりました。

だから、手紙をかきます。日本ごでかきます。

ユウにおしえてもらった日本ごだいぶうまくなったさ!

日本ごのことしらべてたら、日本ごには「ことだま」がやどるといわれているらしいので、オレのきもちがつたわればいいなー、とおもって日本ごにしました。


ユウ、生まれてきてくれてありがとう!!

オレ、ユウとであえて、大げさないみじゃなく、せかいがかわったさ!!

ほんとにユウとであえてうれしいさ!!

ほんとに、ほんとに、たくさんありがとう!!


『愛しています。』

ほんとに、だれよりもずっと愛してます。


プレゼントなんだけど・・・・。

きょ年あげた「じゅず」はたいせつにつかっててくれてて、すっごいうれしいさ!!

すっごいかんがえたんだけど、やっぱりコレしか思いうかびませんでした。





いらないかもしれないけど、オレの『こころ』をプレゼントします。







もらってくれなくてもいいし、たいせつにしてくれなくてもいいです。

ただ、オレがどうしてもあげたかったから。

ブックマンには、『こころ』は、必要ない。

だから、ユウにあげます。

オレが「ラビ」じゃなくなっても、どこのだれになっても、かわらずユウのことが好きだから。

ほんとに、ずっと、好きだよ。

これだけは、かわんない。

だから、ユウのそばに「こころ」をおいていかせて?

へんなプレゼントでゴメンね。




やっぱり、手紙じゃぁきもちがつたわってるかふあんです。

オレのおもってるひゃくぶんの一でもつたわってくれてるとうれしいんだけど。

ユウのたんじょう日にユウといっしょにいれなくて、

さみしいです。

あいたいです。

I'll miss you.

やっぱりこれだけは、日本ごにしっくりこなくてえいごになっちゃったさ。




ほんとに大好きだよ。




ラビより えいえんの愛をこめて・・・・・』








「サイコーのプレゼントだよ。バーカ」

誰も聞く相手のいない言葉を神田は呟く。

そして、返事を書くためにペンをとる。




















『    ラビ  へ

I miss you.

俺もお前のいない事を寂しって思うくらい、お前は俺にとって、大切だ。

お前が恋しい。













P.S.

プレゼントは返せといっても手遅れだ。

あと手紙の漢字と意味は絶対教えてやんねぇ。』


















I miss you!

I love you.を素直に言えない俺の唯一の抵抗手段!!